申請者が以前より行ってきたマウスの小腸上皮細胞間リンパ球(IEL)subsetの部位差に関する研究をさらに発展させ、盲腸、結腸を含めたマウスの消化管全体のIEL分布について調べた。その結果、IEL subsetの部位差は小腸内(小腸上部、中部、下部の間)でも、大腸内(盲腸と結腸の間)でも認められたが、小腸と大腸の間ではその違いが非常に顕著であった。このことから、小腸IELと大腸IELの分布は連続的なものではなく、その分布様式はまったく異なっていると考えられた。このようなIEL subsetの分布の傾向は加齢によって大きく変化するものではなく、3ヶ月齢から24ヶ月齢マウスまでほぼ同様に認められた。一方、IELの細胞数については、6ヶ月齢をピークとして加齢に伴う減少が認められ、腸管免疫系の加齢性変化である可能性が示唆された。また、腸管免疫系の中で誘導部位としての働くパイエル板についても、部位により機能や平常時の活性化状態が異なるか、cDNAマイクロアレイを用いた遺伝子発現解析を行った。その結果、発現に統計学的有意差が認められたのは187遺伝子(約37000スポット中)であった。そのうち、機能的に免疫系に関連した遺伝子は6遺伝子であったが、免疫機能や活性化状態に関する一定の傾向は認められなかった。このことから、マウスのパイエル板は平常時には、その免疫機能や活性化状態に部位による差はほとんどないと考えられた。IELの分布に部位差が認められたのに対し、パイエル板の機能や活性化状態には部位差が認められなかったという結果は、腸管が体長の数倍という長い器官であり、部位によりその機能や腸内細菌叢に大きな違いがあることと併せて考えると、腸管免疫系の生物学的意義を考える上で、非常に興味深い知見である。
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