研究概要 |
今年度は,主に次の2つの課題,(1) 学校における企業の教育活動の問題を扱うカナダの教材の分析,(2) 日本での企業の教育活動の実地調査,に取り組んだ。 第一の課題で分析対象にしたのは,民間の研究機関カナダ・オルタナティブ政策センター(CCPA)が高校生以上に向けて制作した教材『マックワールドに挑戦する第2版』(2005年)であり,なかでも,企業が自社の業務内容に結びつけて作成・頒布する教材の問題を取り上げた単元に注目した。分析から明らかになったのは,この教材が公的領域とコマーシャリズムの関係に対する批判的な学習を目指していることである。具体的には,学習者は,学校では商品宣伝や企業PRといった情報操作とも言える活動が展開されているという現実を理解した上で,公的な機関での私的な利益の追求が社会に対して持つ意味を追究することが期待されているのである。 第二の課題は,日本に目を向けたものだが,カナダと同様に企業の学校教育への進出が拡大している一方で,それに対する問題意識は,カナダとは対照的に,研究者や教員の間ではきわめて低いものがある。一般的に,企業の教育活動へのアクセスはなかなか容易ではないが,それでも学校および企業関係者の協力を得ることができ,その結果,いくつかの教育活動の観察と教材の収集を行った。これらに共通する特徴は宣伝の要素が含まれていることだが,特に出張授業については,各社がそれを社会貢献事業に位置づける傾向が確認された。 このほかには,学校におけるコマーシャリズムの問題の専門家であるA.モルナー教授(アリゾナ州立大学)を訪問し,米国の状況の聞き取りを行った。
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