研究課題/領域番号 |
19H00521
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
井手 誠之輔 九州大学, 人文科学研究院, 教授 (30168330)
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研究分担者 |
板倉 聖哲 東京大学, 東洋文化研究所, 教授 (00242074)
塚本 麿充 東京大学, 東洋文化研究所, 教授 (00416265)
北澤 菜月 独立行政法人国立文化財機構奈良国立博物館, その他部局等, 主任研究員 (10545700)
増記 隆介 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (10723380)
川西 裕也 新潟大学, 人文社会科学系, 助教 (30736773)
森平 雅彦 九州大学, 人文科学研究院, 教授 (50345245)
森實 久美子 独立行政法人国立文化財機構九州国立博物館, 学芸部文化財課, 室長 (70567031)
畑 靖紀 独立行政法人国立文化財機構九州国立博物館, 学芸部文化財課, 主任研究員 (80302066)
谷口 耕生 独立行政法人国立文化財機構奈良国立博物館, その他部局等, 室長 (80343002)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 唐絵 / 朝鮮絵画 / 半島由来 / 高麗仏画 / 越境移動 / アーカイヴ / 朝鮮前期仏画 / 中国絵画総合図録 |
研究実績の概要 |
本研究は、(1)飛鳥・奈良時代における朝鮮系絵画の受容史、(2)半島由来仏画の越境移動と受容史、(3)半島由来世俗画の越境移動と受容史、(4)高麗史・朝鮮史を中心とする史資料からの分析という4つの観点から包括的に研究を進めている。本年度も前年と同様、予定していた国外調査が実施できず、国内調査も抑制的であったが、オンラインによる研究会や国際シンポジウム等へ積極的に参加し、数多くの研究成果を公にできた。 (1)は、中世以降の唐絵概念の成立前にあたり、半島からの渡来系絵師とその末裔が関与したとみられる東大寺戒壇院扉絵や聖徳太子を描く法隆寺の絵画の展開について研究した(谷口、北澤)。 (2)は、高麗仏画と朝鮮前期仏画の全体像を把握すべく日本伝来品の履歴情報の収集を継続してデータベース構築を進めたほか(井手)、奈良国立博物館や高野山霊宝館、和歌山県立美術館、大津市歴史博物館で新出資料をはじめとする半島由来絵画を調査した(井手、北澤、押川)。さらに前年度に開催協力した『中国絵画総合図録』編纂事業にかんする国際シンポジウムをうけ、『コレクションとアーカイブ』の出版(勉誠出版)にあたって、中国絵画を中心とするアーカイブの構築や半島由来絵画を含めた唐絵研究の重要性について編著者・寄稿者として研究成果を公にした(板倉、塚本、井手)。またグラスゴー大学と九州大学との間で実施された東アジア文物の越境移動についてのオンラインシンポジウムで本研究の意義を発表した(井手)。 (3)は、後白河院政期における絵画コレクションや室町時代将軍家の東山御物等のコレクション、近代におけるコレクションをを中心に、高麗・朝鮮を含む中国的規範の受容史について研究を継続した(板倉、北澤、増記、森實、畑)。 (4)は、根津美術館蔵の高麗の阿弥陀如来図や知恩寺所蔵の朝鮮前期の浄土変相図について研究成果を公にした(森平・川西・押川)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度も、予定していた国外調査が実施できず、国内調査も抑制的とならざるをえない状況が続くこととなった。しかしながら、奈良国立博物館や高野山霊宝館、和歌山県立博物館、大津市歴史博物館などで半島由来絵画を含む展観がなされ、新資料や重要作例の確認が進み、半島由来絵画の総合的な把握が進む幸運に恵まれることになった。一方、オンラインによる研究会や国際シンポジウムを主催・共催し、また国内外の他機関が主催するシンポジウム等への参加をすすめることで、総体として活動的であり、多くの研究成果を公にすることになった。
なお、研究経費の一部を一年間繰り越して、コロナ化の沈静化にともなう国外旅費等の資金にあてる予定としていたが、旅費の高騰などもあって、国内資料の受容史へと研究の重点を移さざるを得ない状況が生まれている。ただし国外調査に代替できる情報収集の手法等については、欧米の美術館が所蔵する資料については情報公開が大きく伸展し、また現地機関の学芸員や研究者との交流を介して、越境にともなう受容史に関する基本データを収集することが可能となっているため、当初予想したほどの大きな支障がなくなっている。また東京大学東洋文化研究所と九州大学文学部美学・美術史研究室が保管するこれまでの調査資料から網羅的にデータ入力を進める作業も継続している。
コロナ禍の影響下に大きな遅滞が懸念されてきたが、以上の理由をもって、おおむね順調に進展しているものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
研究の対象を日本国内に現存する半島由来文物へと重点化する方向性が研究分担者との間でも共有される中、研究成果の公表については、研究代表者の九州大学とも距離的に近い北部九州に所在する九州国立博物館や福岡市美術館などにおいて学術性の高い企画展示などをとおして実現することが望ましい。これらの研究成果公表のあり方をめぐっては最終年度の報告書とりまとめをも視野におきながら2023年秋の開催を念頭に置いたスケジュールのもとで、すでに両館との協議を進め実質的な準備作業が進められている。 日本国内の伝存する半島由来絵画は、母国における絵画史研究がほとんど十七世紀以降を対象として実施されている現況に鑑みれば、高麗時代から朝鮮前期にわたる前半部分の主要な代表作のほとんどを占めていることになる。これらの研究資料については、東アジア的なより包括的な視点を取り入れて、日本側と母国側との間で研究交流と真摯な学術的議論を協働で実施する国際シンポジウムの開催が不可欠で、本研究の重要な役割として、展覧会とあわせた国際シンポジウムの実現を目指したい。また日本国内に所在する半島由来文物については、とくに梵鐘や仏像、写経等については、絵画ほどに研究が伸展していない現況に鑑みて、中長期的な展望をもちながら調査研究を進めていく必要がある。
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