研究課題/領域番号 |
19H00524
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研究機関 | 中京大学 |
研究代表者 |
長滝 祥司 中京大学, 国際教養学部, 教授 (40288436)
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研究分担者 |
柏端 達也 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (80263193)
金野 武司 金沢工業大学, 工学部, 講師 (50537058)
橋本 敬 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (90313709)
三浦 俊彦 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (10219587)
大平 英樹 名古屋大学, 情報学研究科, 教授 (90221837)
柴田 正良 金沢大学, その他部局等, その他 (20201543)
浅野 樹里 (加藤樹里) 金沢工業大学, 基礎教育部, 助教 (10805401)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 身体性 / 共感 / 感情 / 死 / 傷つきやすさ / 道徳帰属 |
研究実績の概要 |
本研究の問いは、〈知的なロボットのような新たな存在を、道徳的行為者として受容できる社会にむけた新たな道徳理論の主要テーゼとは何か〉である。本年度は、人間とロボットとの共生を構想するにあたって、共感-感情の身体性とは何か、美的-感情的性質一般が文化的構築物にどう組み込まれるか、身体的存在である人間にとって不可避の死や傷つきやすさとは何か、といったことを哲学的観点から論究した。これらに関わるいくつかの成果によって、身体性・文化・死をめぐる概念的な結びつきを示す素地を構築した。その結果、これらはどれも、異質な存在との間で共有すべき性質であることが明らかになった。特に死や傷つきやすさについては、その存在論的性質をめぐる考察によって、共生の深度を測ることができるはずである。 我々は、上記の哲学的研究を進める中で、身体的な共感が道徳の起源やロボットが道徳的行為者性を獲得するための重要な要因の一つになると考え、人-ロボット・インタラクションと道徳の帰属課題を組み合わせた実験を行った。これによって、たとえ単純な身体同調であっても、人間がロボットのような機械に道徳帰属を行うことが分かった。また、二者間の動きに見られる同調動作とターンテイキングが、人らしさの判断にどのような影響を与えるのかについても人と人、人と機械との比較実験を行った。この実験では、機械であっても人を模擬したパターンを学習した場合、人-機械の識別がかなり困難になるという結果が得られた。さらに、サイコパシーという異質な性格者の道徳逸脱についての実証研究を行った。この「異質性」の研究は、ロボット-異質なものとの共生の可能性に側面から光を当ててくれた。 我々は、これらの哲学的考察と実証研究をさらに統合的に推進することで、道徳的な意味も含めて、ロボットが人間との共生に必要な心や身体をもちうるという主張を擁護できると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概要で記した内容について、論文9本(国際ジャーナル3編を含む)、国際学会での発表6回(国内学会、講演などは含めず)、著書4編(単著1編、共著3編)として国内外に公表することができた。 人間とロボットとの共生を構想するにあたって哲学的に探求した、1.共感-感情の身体性とは何か、2.美的-感情的性質一般が文化的構築物にどう組み込まれるか、3.身体的存在である人間にとって不可避の死や傷つきやすさとは何か、については、それぞれ『科学哲学』『美学芸術学研究』『哲学論叢』といった学会誌に掲載した。またロボットの身体性と傷つきやすさに関する論考も4Sの国際シンポジウムで発表し、北欧を中心とするソーシャル・ロボットのリサーチグループとの共同研究を模索しているところである。 一方、実証的研究については、国際ジャーナルに掲載した人間-ロボットの身体的インタラクション実験と道徳帰属課題を組み合わせた実験の成果については、発表した会場でも複数の研究者から共同研究について打診があっただけでなく、発表後すぐに引用等の反響があった。人-ロボットの同調動作とターンテイキングに関わる研究、またこれと関連してミラーニューロンの活性を調べる実証研究も、国際学会、国際ジャーナルで発表した。また、サイコパシーの道徳逸脱に関する実証研究は、共著書や国際ジャーナルへの論文として発表した。これらの媒体は、いずれも、高水準の学会、ジャーナルであり、一定の評価を得ている。 加えて、本研究を広く世に問う方策として、高校生を対象とした共著のブックレットを出版できたことは、研究の社会還元としての意味が大きい。 以上のように、研究計画の1年目であるにも関わらず、一定の成果をかたちにすることができたという点、そこから国際的な共同研究につながる萌芽を得た点、社会還元の方途を提供できた点で、「おおむね順調に進展している」という評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究はロボットとの共生可能性を基幹テーマとする。これを追究するにあたり、〈道徳概念の成り立ちとはいかなるものか〉を明らかにすることが重要な課題となる。つまり、①〈道徳の起源の解明〉が本研究の第一の目的である。また上の基幹テーマを満たすには、ロボットが単に共感や慈悲の対象となるだけでなく、帰責の対象とならなくてはならない。そこで、②-i〈ロボットが道徳的行為者性を獲得するために満たすべき諸条件の解明〉、及びその要件となる②-ii〈人間の他者理解の解明〉という第二の目的が導き出される。さらに、ロボットとの共生の局面において倫理的問題を検討するにあたっては、「モラルラック」の介入を考慮・精査する必要がある。そこで、人間とロボットの共生を想定した③〈道徳的運のロボット的な解明〉という第三の目的が設定される。次年度は、本年度に引き続き、主として①と②-iに焦点をあてて、概念的研究と実証研究を行う。前者に関しては哲学概念部門が文献研究を行うほか、道徳哲学や道徳心理学の専門家を招聘して討議を行う。後者に関しては、他者に道徳帰属をする際の多様な条件について、ネットアンケートでデータを収集し解析する。これをもとに、人間とロボットとの身体的インタラクション実験、道徳課題実験などを再構築することで、道徳の起源の解明に資する実証データを収集する。これらの研究成果は、本研究グループ主催による国際会議(ミラノ、ベルガモ)で、哲学のほか、AI、ロボティクス、心理学、脳科学等、多岐にわたる分野の研究者を招いて集中討議を行う。これは、本研究推進の核をなすものである。また、本科研グループ・メンバーと、先の国際会議の参加者を含めた国際共著、Emotion, Communication, Interaction(McGraw-Hillより刊行予定)を出版することが、本研究推進のもう一つの大きな核となっている。
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