研究課題/領域番号 |
19H00595
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
後藤 玲子 一橋大学, 経済研究所, 教授 (70272771)
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研究分担者 |
神林 龍 一橋大学, 経済研究所, 教授 (40326004)
小塩 隆士 一橋大学, 経済研究所, 教授 (50268132)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ケイパビリティーアプローチ / 高齢者・障害者 / 公共的討議 / ICECAP-0 / パネル調査 / 外出調査 / 自立 |
研究実績の概要 |
ケイパビリティアプローチは、本人の主体的意思決定への科学的・客観的な接近を可能とする。その方法論的特徴は、個人が、所与の資源を変換することによって、選択しようと思えば選択できる機能ベクトルの機会集合(すなわち「ケイパビリティ」)を捉える点にある。本研究は、このケイパビリティ・アプローチを『A市高齢者・しょうがいしゃの外出に関する調査』にあてはめ、一般高齢者・障碍者・要支援要介護者の外出/在宅活動に関するケイパビリティの測定を次の手順で試みた。はじめに、特定の日における個々人の外出/在宅活動について、困難体験を計測することにより、本人の利用能力を、環境利用能力、対人利用能力、個体利用能力という3つの側面に集約する方法を提案した。さらに、外出/在宅活動の評価を4つの次元、すなわち、「(根源的)安心」に関わる機能Ⅰ、「金銭・時間・健康の得」に関わる機能Ⅱ、「交流・喜び」に関わる機能Ⅲ、「(自尊)じぶんらしさ」に関わる機能Ⅳに集約する方法を提案した。2018年、2019年度に実施した調査に続いて、2020年度は新型コロナウイルス感染症の影響と、福祉有償運送政策の効果を調べるために、2020年7月、10月、2021年3月の3回にわたってパネル調査を実施した。 これまでの調査により、A市では一般高齢者・障碍者・要支援要介護者グループ間で諸機能の達成水準がはっきりと異なること、その違いは一部、利用能力に依存するものの、それでは説明できない部分が残ることがわかった。また、要支援要介護者と障碍者においては、在宅活動における困難さも浮き彫りにされた。本研究の目標は、第一に、このような具体的な分析結果を市民にフィードバックさせ、公共的討議の基礎となるデータを提供すること、第二に、ケイパビリティアプローチの理論と方法を確立することにある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
The Ethics and Economics of Capability ApproachをSpringerから刊行できたこと。学術雑誌『経済研究』に論文を刊行できたこと、A市の福祉交通行政の改革に実証的な論拠を与えることができたことなど、2020年度までに達成できた成果は大きい。とはいえ、新型コロナウイルス感染症により、パネル調査を分析する傍証となるインタビュー調査を進めることができなかったこと、また、ICECAPという国際的なケイパビリティ指標を用いた比較分析を行うことができなかった点は、予定外のおくれだった。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度に実施した3回のパネル調査によって、ケイパビリティアプローチにもとづくオリジナルな実証研究の方法と理論を、仮説的に構築することができた。また、新型コロナウイルス感染症の流行、ならびに、市民ベースの福祉交通システム(福祉有償運送など)の展開といった外生的なパラメーターについて、多角的に分析するための素材を手にすることができた。2021年度は第一に、これらの仮説的分析を推し進め、得られた知見をもとにケイパビリティアプローチ調査の理論と方法について、学術論文として完成させたい。第二に、2020年度の調査の枠組みを継続しつつ、新たなデータのもとで豊かな分析結果を累積したい。第三に、これらの成果をもとに、次の5年間の拡大パネル調査の実現に向けて準備を始めたい。付記すれば、これまで蓄積してきた調査と分析の方法を次世代に伝えるために、オンラインセミナー等を通じた若手研究者たちとの継続的な協同研究を組織したい。また、2020年には断念した海外の研究者とのオンライン等を通じた比較共同研究を再開させたい。
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