研究課題
エキシトニック絶縁体であるTa2NiSe5についてフェムト秒時間分解光電子分光によって光誘起半金属相の解明を進めた。光誘起半金属相のフェルミ面とバンド構造を詳細に調べることで、そのトポロジカルな性質を検討した。複数存在するバンドごとにコヒーレントフォノンの振動数が異なることを発見し、振動数別にバンドマップを行う手法を提案した。エキシトニック相への転移温度が低下したCo置換系においても、光誘起半金属相を観測すること成功した。これまで波数空間の1軸方向しかフェルミ面を観測できなかったが、今回は測定方法を工夫することによって2次元波数空間でフェルミ面を観測することに成功した。測定結果は、単斜晶に歪んだエキシトニック相での計算結果ではなく直方晶のノーマル相の計算結果に近く、光誘起半金属相での結晶構造の変化が示唆された。Co置換系ではエキシトニック絶縁体相への転移がBEC型からBCS型へと変化することが理論的に予測されており、Co置換による光誘起ダイナミクスの変化とBEC型からBCS型へと変化の関連を検討した。エキシトニック絶縁体相への転移を示さないTa2NiS5について、光電子分光と高圧下赤外分光によって電子状態を解明した。まず光電子分光の結果から、Ta2NiS5のNi 3d電子は局在性を有しており、通常の半導体ではなくValence bond 絶縁体であることが明らかになり、エキシトニック絶縁体相とValence bond 絶縁体相との間の量子相転移が示唆された。さらに高圧下赤外分光では、Ta2NiSe5に比べて高圧側で金属化することがわかり、その圧力誘起金属相はTa2NiSe5の場合と異なることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本課題の主目的の一つであるエキシトニック絶縁体Ta2NiSe5の光誘起相転移の解明について、フェムト秒時間分解光電子分光の測定および解析を精力的に行った。これらの測定結果をまとめた論文2編を学術誌に投稿済みであり、順調に進展している。エキシトニック絶縁体相への転移を示さないTa2NiS5については、当初は通常の半導体と予測していたが、NiサイトとSeサイトの不対電子がスピン1重項を形成するValence bond 絶縁体であることが判明した。この結果は2019年末に学術誌に発表され、国内外から注目を集めている。高圧測定のプロジェクトではHgCdTe赤外線検出器を導入し、実験が順調に進んでいる。高圧実験では、Ta2NiS5において、通常の半導体では生じない圧力誘起金属相が発現する様子が観測されている。研究計画の段階では単なる半導体と考えていたTa2NiS5が非常にユニークな電子状態をもつ物質であることが判明し、この新たな知見に基づく研究が進展している。原子層試料のプロジェクトでは原子間力顕微鏡を導入し、試料の試作を開始している。剥離した試料の表面は非常に平坦であることが確認されており、次年度以降の進展が期待される。
エキシトニック絶縁体Ta2NiSe5およびCo置換系の光誘起相転移の解明について、さらなるフェムト秒時間分解光電子の測定および解析を進める。まず、コヒーレントフォノンの振動数によるバンドマップの手法を応用し、光誘起相転移における電子格子相互作用の効果を解明する。さらに、BEC型とBCS型の違いを解明するために、過度状態の光電子スペクトルを詳細に解析する。時間分解能の制約はあるが、光励起後の伝導帯および価電子帯の振る舞いと、半金属相からエキシトニック絶縁体相への緩和の様子を系統的に測定する予定である。さらに、Co置換の効果について、理論的な解析を予定している。高圧測定のプロジェクトでは、Ta2NiS5の測定の継続に加えて、Ta2NiSe5のCo置換系やS置換系の測定を計画している。原子層試料のプロジェクトでは原子層試料を実際に作成し、光電子分光等によって電子状態を評価することを計画している。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
Phys. Rev. B
巻: 101 ページ: 020508
10.1103/PhysRevB.101.020508
巻: 100 ページ: 245129
10.1103/PhysRevB.100.245129