研究課題
近年、個別に疾患のリスクを遺伝子診断し、個々が発症する前に予防介入を行う「先制医療」が、国策としても極めて重要であることが叫ばれ始めた。研究代表者らは、約25年も前から、がんのハイリスク集団に対するテーラーメイド予防研究を行ってきた。本研究課題では、「家族性大腸腺腫症」と「リ・フラウメニ症候群」の保因者の発がんリスク軽減を目標に、今までの実績を基に、その集大成として、実際にがんの先制医療を可能とする基礎的研究を完成させたい。まず、発がん抑制に重要ながん抑制遺伝子であるRBに着目し、RB活性化作用、抗炎症作用を有する食品成分の文献調査を行った。遺伝的にがん抑制遺伝子APCが失活している「家族性大腸腺腫症」の保因者に対する先制医療研究として、文献調査で選定してきた食品成分、すなわち「がん予防カクテル候補成分」を、APC遺伝子に変異を有するヒト大腸がん細胞株SW480に投与し、細胞の増殖抑制効果を測定し、その情報を収集してきた。令和2年度は、新たな「がん予防カクテル候補成分」の細胞増殖抑制効果を継続して検証しつつ、MEK阻害剤トラメチニブと、これら候補成分の併用効果の検証試験を行った。トラメチニブは、がん細胞の異常増殖に寄与するMEKの機能を阻害することで、がん細胞内の増殖シグナルを強力に抑制することができる画期的分子標的薬であり、本研究課題の研究代表者が製薬企業との共同研究により見出し、上市に至った薬剤である。トラメチニブ単剤投与に対し、上記「がん予防カクテル候補成分」とトラメチニブとの組み合わせによる相乗効果について検証を行った。その結果、候補成分の一つである化合物「X」とトラメチニブの併用時に、がん細胞の増殖抑制効果において、統計学的に有意な相乗効果を認めた。この併用条件において、細胞周期停止作用の増強効果も認められている。
2: おおむね順調に進展している
昨年度から進めている『がん予防カクテル』の候補成分から、MEK阻害剤トラメチニブとの併用により相乗的にヒト大腸がん細胞SW480の増殖抑制効果を示す化合物「X」を見出すことができた。さらに、分子機序解析を進め、併用効果に寄与する経路の同定を目指す。引き続き、新たな『がん予防カクテル』の候補成分の単剤効果の検証も進めており、並行してMEK阻害剤トラメチニブとの併用試験も進めていく。これらは、おおむね、当初の予定に沿った進行である。
APC失活ヒト大腸がん細胞SW480を用いて、引き続きMEK阻害剤トラメチニブと、スクリーニングで得られた『がん予防カクテル』候補成分の組み合わせの検証を行う。得られた候補カクテルに関しては、がん細胞増殖抑制能、細胞周期停止能、細胞死誘導能、抗炎症能等の評価を行う。さらに、正常細胞との比較試験によるがん細胞特異的作用も検証する。次に、遺伝的にがん抑制遺伝子p53が失活している「リ・フラウメニ症候群」の保因者の先制医療研究として、p53失活がん細胞を用いて、p53の機能を代償する遺伝子群の発現を上昇させる食品成分の組み合わせの検証を行う。経口摂取可能なHDAC特異的阻害剤であるボリノスタットに加えて、上述のスクリーニングの結果より得られた『がん予防カクテル』との併用を検証する。得られた候補カクテルに関しては、正常細胞との比較試験によるがん細胞特異的作用で検証する。並行して経口摂取可能な新規のHDAC特異的阻害剤の創製研究も行う。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (17件) (うち国際共著 4件、 査読あり 17件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (15件) 図書 (3件)
Lancet Gastroenterol Hepatol
巻: - ページ: -
10.1016/S2468-1253(21)00018-2.
Cancers
巻: 13 ページ: -
10.3390/cancers13050982.
Carcinogenesis
巻: 42 ページ: 148-158
10.1093/carcin/bgaa084.
Cancer Gene Ther
10.1038/s41417-020-00287-0.
RSC Adv
巻: 11 ページ: -
10.1039/D1RA00915J
Ghate Bioorg Chem
巻: 110 ページ: 104801-104819
10.1016/j.bioorg.2021.104801
ChemMedChem
巻: 16 ページ: -
10.1002/cmdc.202000933
Breast Cancer Res Treat
巻: 185 ページ: 343-357
10.1007/s10549-020-05963-1
Mol Cancer Ther
巻: 19 ページ: 1992-2000
10.1158/1535-7163.MCT-20-0243.
Cancer Sci
巻: 111 ページ: 2052-2061
10.1111/cas.14414.
Nutrients
巻: 12 ページ: -
10.3390/nu12061599.
10.3390/cancers12051097
J Synth Org Chem Jpn
巻: 78 ページ: 1151-1162
10.5059/yukigoseikyokaishi.78.1151
Andrology
巻: 8 ページ: 1895-1906
10.1111/andr.12846
Nat Genet
巻: 52 ページ: 919-930
10.1038/s41588-020-0665-7
Am J Physiol Cell Physiol
巻: 318 ページ: C345-C358
10.1152/ajpcell.00587.2019
ACS Catal
巻: 10 ページ: 5383-5392
10.1021/acscatal.0c00369