研究課題/領域番号 |
19H01089
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
柴田 重信 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (10162629)
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研究分担者 |
金 鉉基 早稲田大学, 理工学術院, 講師(任期付) (10791874)
高橋 将記 早稲田大学, スポーツ科学学術院, 助手 (30711189)
駒田 陽子 明治薬科大学, 薬学部, 准教授 (40451380)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 体内時計 / 時計遺伝子 / 時間栄養学 / ライフステージ / ヒト / マウス |
研究実績の概要 |
研究計画に従い、マウスの基礎研究では、時間栄養、時間運動の作用メカニズムを明らかにする研究を遂行した。まず、時間運動学では、朝の運動より夕の運動の方が腸内細菌に効果的であった。その理由は、食事を取って運動することで、腸の消化や腸内細菌の活性化が起こることであった。したがって、食事と運動のセットが重要であることが示唆された。また、時間栄養の視点では、水溶性食物繊維の代表であるイヌリン摂取実験を行った。その結果、大腸内のpH濃度、短鎖脂肪酸の発現量のいずれの指標でも、夕方より朝方のイヌリン摂取で腸内細菌叢が活性化されることが分かった。また、理由を調べるために、絶食時間を同一にして朝夕のイヌリン摂取を行うと、今度は両者に差は認められなかった。また、イヌリンが豊富に含まれ、日本で食材として広く使われているゴボウに着目して研究を行った。その結果、面白いことに同じ濃度のゴボウと、イヌリンを比較すると、圧倒的にゴボウの方が効果的であった。ゴボウ粉末は約30%程度のイヌリンしか含有しないので、イヌリン以外の非水溶性食物繊維や、他のクロロゲン酸などのポリフェノールが相乗的作用することを明らかにした。 ヒトの調査研究では、港区の小学校・中学校で実施した朝食のタンパク質摂取と健康(勉学、運動、睡眠)のタンパク質種別にクラスター解析を行い、朝食タンパク質の摂取パターンと健康指標とのかかわりを調べた。朝食時のタンパク質の摂取状況を、肉類、魚類、乳製品、卵、大豆製品で調べクラスター解析を行った。その結果、肉類と卵 (洋食)、魚類と大豆(和食)、乳製品(シリアル)の3者に分かれることを突きとめた。勉強の好き嫌いや成績、またスマートフォンの利用頻度、不安やイライラの頻度、体力に対する自信など、和食が洋食より勝っていた。さらに日本食文化では、だしを取る食材、季節の旬の食材などの知識も優れていることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウスの基礎研究では、時間栄養、時間運動の視点での腸内細菌医に対する作用の特徴を明らかにすることになっていたが、本年度は、非常に多くの研究成果を挙げてきた。特に、時間運動では夕方運動の有用性、あるいは、食事と運動のセットは、メタボ予防の場合や、サルコペニア予防のときのみならず、腸内細菌の健康維持でも重要なポイントであることを示唆した。また、時間栄養の視点では、イヌリン、ゴボウ、さらに難消化性タンパク質の大豆タンパクの作用について詳しく調べた。その結果、朝に水溶性食物繊維や難消化性タンパク質の摂取が腸内細菌の活発化を引き起こすという研究成果を生み出した。これらの研究成果は、朝食での食物繊維の摂取の有用性をアピールする社会実装に結びつく成果であった。また、イヌリン単体より、ゴボウや恐らく菊芋などイヌリンと他のポリフェノールなどの成分の組み合わせの効果が強く現れることから、実際の農産物の摂取を勧める結果となり、これも社会実装できる成果であった。このように十分な成果が得られた。 ヒトの研究では、小学校・中学校の児童で朝食のタンパク質摂水の重要性と和食の有用性を世界で初めて明にした。朝食欠食と学業成績や運動能力が議論されているが、朝食内容まで特にタンパク質まで言及した論文はない。今回、特にタンパク質摂取パターンをクラスター解析解析し、和食と洋食の食事パターンに分けることに成功した。さらに和食の有用性を示すことは和食文化の浸透にも大いに役立ち、想定以上の成果であった。また、夜食症候群の体内時計を髭のPer3遺伝子発現で調べることに成功し、夜食症が、ある種の体内時計異常症であり、体内時計の視点からの改善方策を提案するなど、ヒトの体内時計の異常症の例を増やすことが出来た。このようにマウス・ヒトのいずれも研究の進捗状態は良く、論文発表も活発にされている。
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今後の研究の推進方策 |
マウスの実験は、引き続き、夜食症のモデルマス、社会的時差ボケモデルマウスの作成、腸脳相関としての腸内細菌の役割認定、あるいは、水溶性食物繊維の摂取による体内時計同調メカニズムの解析を行う。社会的時差ボケモデルマウスを用いて、時差ボケを解消する機能性食品を予備的にスクリーニングした結果、カフェイン・ヒスチジン(どちらも覚醒効果をもたらす)含有飲料を朝に与え、社会的時差ボケが解消する可能性が見いだせた。そこで、社会的時差ボケが大きい大学生を対象にマウスの実験データをヒトで検証する。この場合、カフェインのみ、カフェインとヒスチジン、カフェインとアルギニン、プラセボの4群を用意し、社会的時差ボケ解消効果があるかいなか、時計遺伝子発現リズムの評価やフィットビットによる活動リズムの位相の評価で実験を行う。マウスを用いた実験から、難消化性炭水化物や難消化性タンパク質は腸内細菌叢を改善し、またメタボリックシンドロームを予防する効果を見出してきた。そこで、大学生から高齢者までを含めて、食物繊維が豊富な食材を用いて、間食や夜食後のセカンドミール効果による、夕食や朝食時の血糖リズム、あるいは行動活動リズムの強弱や位相について検証する。特に食物繊維の違いや食材による違いに焦点当てる。 AIやセンサー技術の発達で、食・運動・休養の個人情報を得ることが容易になってきた。これらの情報は基本的には時系列になっているので、時間健康科学の研究には、非常に都合が良い。あすけん(株)と共同で、20代から60代までそれぞれ男女の1000名のデータを用いて、カメラによる食事記録を解析し、ライフステージ別の「個人の体内時計・時間栄養学」評価を行う。特に摂取栄養素の朝と夕の摂取バランス差や、肥満や筋肉量と朝食や夕食での摂取栄養素あるいは、朝食と夕食の比率との相関性を調べる。得られた結果は学会に積極的に発信する。
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