研究課題/領域番号 |
19H01173
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
牛田 多加志 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (50323522)
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研究分担者 |
上田 太郎 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (90356551)
古川 克子 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (90343144)
伊藤 弓弦 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究グループ長 (30500079)
佐藤 正人 東海大学, 医学部, 教授 (10056335)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 軟骨細胞 / 静水圧 |
研究実績の概要 |
無細胞系において,Ras単体,またはGAPとGEFを含めたRasサイクルの圧力感受性を検出し,そのメカニズムを解明することを目的として,研究を進めている.昨年度は,FRETによりRas活性を検出できる機能的Raichuを昆虫細胞発現系を用いることで調製し,常圧と高圧下でのRas活性が測定できるようになった. 一方,細胞系においては,軟骨前駆細胞を用い,物理刺激を感知すると言われている一次繊毛の過大静水圧感受性に関する実験を進めた.また,静水圧負荷によるATP放出に関する実験を進めた. また,過大静水圧処理をした軟骨前駆細胞において特異的に発現が変動する遺伝子を網羅的に同定する実験を進めた.抽出された遺伝子群のGO解析,パスウェイ解析を行うことにより,静水圧によるインプットが細胞に与える影響を予測した.そして,予測結果を基に,静水圧センシング及びその細胞動態解明のための検証実験プランを提示した. 開発した静水圧負荷に加え,圧縮応力も同時に負荷可能なシステムを用い,3次元培養された軟骨細胞に過大静水圧刺激を負荷した後のリカバリーについて,圧縮応力,静水圧それぞれ単独に負荷した場合と,同時に負荷した場合に分けて,遺伝子発現レベルで検証した. 動物実験実証研究においては,これまでに日本白色家兎並びにラットを用いた異種同所性移植モデルによる有効性評価をそれぞれ確立している.多指症由来軟骨組織より作製した細胞シートを用いて日本白色家兎並びにラットモデルへの細胞シート移植により両動物種での修復再生効果の同等性確認し,静水圧負荷技術により作製された再生軟骨組織の動物実験系を決定した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
5つの研究課題それぞれ下記に記す進捗があり,研究は概ね順調に進展している.昆虫細胞発現系を用いることで,機能をもったRaichuを発現できるようになり,Ras活性を蛍光分光計でリアルタイムに観察できるようになった.さらに蛍光セルに圧力を印加することで,高圧下のRas活性も観察できることを確認した. 細胞系においては,軟骨前駆細胞を用い,物理刺激を感知すると言われている一次繊毛の過大静水圧感受性に関する実験を進めたところ,過大静水圧負荷で一次繊毛が数分以内に消え,その現象にはAurora Aに依存する標準的な一次繊毛の分解メカニズムがかかわっていないことが分かった.また,静水圧負荷によって,ATPがパネキシン1というチャンネルを通って分泌されることも分かった. トランスクリトーム解析(mRNA, miRNA, lincRNA)においては,静水圧により変動したmRNAを247種,lncRNAを14種単離した.それらの遺伝子に対して各種インフォマティクス解析を行ったところ,細胞周期,炎症反応,脂肪酸代謝などのシグナルが変動していることが明らかとなった. 細胞分化・組織再生のin vitro実証研究においては,3次元培養された軟骨細胞に圧縮応力,静水圧それぞれ単独に負荷した場合と,同時に負荷した場合とを比較した結果,OA関連遺伝子発現レベルにおいて,同時に負荷した場合においてより顕著なリカバリー効果が見られた. 動物実験実証研究においては,日本白色家兎並びにラットモデルの組織染色及びICRSスコアリングによる組織学的評価等のデータを収集し評価した.ラットモデルによる評価も可能となったことから,静水圧負荷技術により作製された再生軟骨組織を用いた場合の移植方法等について検討を進めている.
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今後の研究の推進方策 |
再構築実験系における検証研究においては,予備的な実験において,GEF存在下のRas活性が高圧下では常圧より上昇するという結果を得ているので,今後さらに詳細な条件検討を行い,再現性の高いデータを得る.これをもとに分子機構を考察し,これを検証するための実験のデザインに取り組む. 細胞実験系における検証研究においては,静水圧負荷した軟骨細胞に惹起されるシグナル径路を,軟骨分化に特異的なSOX-9およびearly response gene であるc-fosの遺伝子発現に絞り,それらのシグナル伝達経路から遺伝子発現に至る径路を検証する. トランスクリトーム解析(mRNA, miRNA, lincRNA)による体系化研究においては,昨年度解析したサンプルと対応するエクソソームから抽出されたRNAの網羅的解析を行い,静水圧により変動したmiRNAを同定する.それらの支配下にある遺伝子をデータベース等の情報から予測することで,昨年度明らかにしたmRNA/lncRNAのデータとの相関性を明らかにする.その上で,静水圧を細胞が受容するメカニズムをトランスクリプトームレベルで予測する. 細胞分化・組織再生のin vitro実証研究においては,開発した静水圧負荷に加え,圧縮応力も同時に負荷可能なシステムを用い,軟骨組織損傷がそれら2種類の物理刺激によって,どのようにリカバリーされるか,遺伝子レベルで検証する. 細胞分化・組織再生の動物実験実証研究においては,細胞分化・組織再生のin vitro実証研究により作製された再生軟骨組織を日本白色家兎並びにラットの軟骨損傷モデルに移植し,組織染色及びICRSスコアリングによる組織学的評価等を実施する.
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