研究課題/領域番号 |
19H01318
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
宮宅 潔 京都大学, 人文科学研究所, 教授 (80333219)
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研究分担者 |
佐川 英治 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (00343286)
森部 豊 関西大学, 文学部, 教授 (00411489)
丸橋 充拓 島根大学, 学術研究院人文社会科学系, 教授 (10325029)
佐藤 達郎 関西学院大学, 文学部, 教授 (30340623)
鷹取 祐司 立命館大学, 文学部, 教授 (60434700)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 中国古代 / 軍事史 / 暴力 / 制度史 / 社会史 |
研究実績の概要 |
本年度は研究計画の初年度にあたり、新出史料の読解を進めるとともに、軍事史研究の新しい地平を切り拓いていくための具体的な方向性について、メンバーの間で意見を交換し、認識を共有していくことに努めた。 新史料の読解については、京都大学・人文科学研究所において定期的に研究会を開催し、岳麓書院所蔵簡の秦律令を読み進め、その訳注を作成した。当該の律令には、中国古代の兵役制度に関連する条文が多く含まれ、従来の研究を根本から見直す必要性が生まれている。本年度に作成した訳注は、次年度に『東方学報』誌上に掲載される予定である。これに先行して、宮宅が同誌に論考「秦代徭役・兵役制度の再検討」を寄稿した。本論考では、会読の成果を踏まえつつ、当該時代の兵役制度の概要が整理され、労役負担は継続的な労役と一時的な労役とで徴収方法に違いのあったこと、「継続的な労役」の主たるものは辺境防備の任務であり、その徴収方法が次第に一般化していった可能性が高いこと、などが論じられた。 加えて、共同研究の方向性をより確固としたものとするために、キックオフワークショップを国内メンバー参加の下に開催した。そこでは「多角的」な検討を一つの方向に束ねてゆく軸として、「武力=公認された暴力」という視点を提示し、中国古代において「暴力」が強制力として、あるいは社会集団を定義するための凝集力として、如何なる機能を有したのかについて意見を交換した。併せて、各メンバーが取り組む具体的な課題についても討議し、上述した問題軸と各自のテーマとをすり合わせて、個々の役割分担を明確化した。このときの議事内容は記録して中国語に翻訳し、海外の研究協力者に送付し、それを土台とした意見の交換を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新出史料の会読は継続して進められ、十分な成果を挙げている。また共同研究者との協業もひとまず順調に滑り出した。2019年度の夏期に宮宅が韓国・ドイツに渡航した際には、韓国で共同研究者の陳偉(中国・武漢大学)・金秉駿(韓国・ソウル大学)、ドイツではギーレ(ハイデルベルク大学)と面談し、今後の協業について打ち合わせを行うこともできた。また、丸橋による陝西省の実地調査も予定通りに行われ、十分な成果を得た。 ただし、新型コロナの感染拡大により、19年度末に予定していた陳・金、および孫聞博(中国人民大学)の招へいは延期し、そのための経費を翌年に繰り越すこととなった。思わぬ流行の長期化により、いまだに招へいは実現していないが、その代替措置として、(1)オンラインでの意見交換、および(2)研究成果を翻訳・発表することによる、積極的な海外への発信を強化した。たとえば、武漢大・ソウル大・京都大の三校の共催により、「戦国秦漢簡牘在線研読会」というオンラインの研究会を組織し、新出史料に関する研究報告の場を設けた。これは2020年の12月より、三ヶ月に一度の頻度で定期的に開催することになり、このプロジェクトの共同研究者、さらには各大学の若手研究者が意見を交換する貴重な機会となっている。繰り越した経費は、こうした研究活動を推進するために使用した。 疫病の流行により、研究プロジェクトが一時期停滞したのは否めないが、代替手段を活用することで、国境を越えた研究交流が一層活発になった部分もある。これにより、総体的には「おおむね順調に進展している」ものと自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
まず、次年度も今年度と同様に、新出史料の会読を進めてゆく。この研究会も、2020年4月の緊急事態宣言の発令以降、オンラインに切り替えた。幸いに切り替えはスムーズにゆき、予定していたのと同じペースで研究会を開催できている。さらに、これによって海外共同研究者の会読への参加が可能となっており、訳注の作成も彼らとの協業により行ってゆく予定である。 各自の研究テーマについての研究報告も、同様にオンラインで行う。上述した三校共催のオンライン研究会も活用して、相互に意見を交換し、各自の研究課題をより深く掘り下げてゆく。時差の問題で参加が難しい欧米の共同研究者には、引き続き翻訳した議事録の配布により、問題意識の共有を図る。併せて、段階的に得られた研究成果を翻訳し、広く発信してゆく活動も積極的に進めてゆく。 当初の計画では、2021年度に中国で国際シンポジウムを開催し、本プロジェクトの中間報告とする予定であったが、それが実施できる可能性は、現時点においてはたいへん低い。これについてはさらに後の年度への延期や、オンラインでの開催をも考慮に入れて、柔軟に対応してゆきたい。
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