研究課題/領域番号 |
19H01393
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研究機関 | 県立広島大学 |
研究代表者 |
上水流 久彦 県立広島大学, 公私立大学の部局等(庄原キャンパス), 教授 (50364104)
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研究分担者 |
中村 八重 東亜大学, 人間科学部, 客員研究員 (00769440)
飯高 伸五 高知県立大学, 文化学部, 准教授 (10612567)
永吉 守 西南学院大学, 国際文化研究科, 博士研究員 (20590566)
楊 小平 島根大学, 国際交流センター, 特任講師 (30736260)
藤野 陽平 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 准教授 (50513264)
パイチャゼ スヴェトラナ 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 准教授 (10552664)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 大日本帝国 / 遺産化 / 建築物 / 記憶 / 建築様式 / 植民地主義 / 日本認識 / 歴史認識 |
研究実績の概要 |
主に建築物のライフヒストリーの検討という観点から、以下の3点に注力して調査を行った。①大日本帝国期(以下、帝国期)に建築物が建設される状況、背景の整理、②帝国期の建築物の利活用の変動要因の検討、③帝国期の建築物の現状の把握、である。 ①については、大日本帝国の国際社会における位置づけによって建築物の様式が異なることがわかった。特に帝国期初期は、先進性を示すために日本的意匠はあまり重視されなかった。末期になると日本的意匠が反映されるようになった。だが、現在、多くの場合は、「モダン」な建築物として消費・理解されている。次に②であるが、短期的にみても政治的影響を受けて利活用の在り方、特に「日本」と言う要素の扱いがかわることがわかった。その顕著な例が、韓国の帝国期の建築物である。政治的関係の悪化を受けて、「日本」という要素を不可視可することでその利用が図られていた。長期的に見ると、台湾の民主化の発展によって帝国期の建築物の遺産化も進んでいた。そこには、台湾の歴史の中華民国での位置づけの変化が反映されいた。中国においても国家的なレベルで遺産化するのは、2010年代前半であり、日本と中国との関係が反映されていると思われる。最後に③についてである。サハリンについては神社や博物館になった建築物については先行研究があるが、全般的なものは管見する限り、見当たらない。そこで残っていない帝国期の建築物の現状も含めて調査を実施した。残された建物への注目が逆に残されていない建物の多さを不可視化しており、その意味を検討する必要があることが明らかになった。 このほか、大牟田市の市庁や沖縄の離島における遺産の事例においては、現地の保存・廃止に関わる人間関係も含めた微細なデータを収集した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年2月より、新型コロナウィルス感染の世界的拡がりを受けて、国外調査を実施することが不可能となった。そのため、2020年2月・3月に予定していた国外調査を実施することができなかった。補助金の繰り越しを行い、2020年度(2020年4月から2021年3月)に現地調査を実施することしたが、感染は収束せず、現地調査ができない状況が最後まで続いた。そのため、国外調査は史資料中心の研究になっていることは否めない。史資料文献から、各地域の帝国期、戦後の建築物や遺産化に関する歴史的経緯について積極的に整理を行った。国内調査も制限なくできるわけではないが、北海道や沖縄など国内植民地であった地域の帝国期の建築物、その他の国内の建築物については、現地調査を行うなど、概ね順調に調査を実施できた。 研究会では、本研究課題に関連する講師を招き、ディスカッションを行うなどし、研究課題の明確化、情報の共有化を行った。この点は、順調に実施できた。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度も国外での現地調査の実施は楽観視できない状況となっている。そこで、2021年末までは、史資料の分析、理論的課題の検討、国内調査(新型コロナウィルスの感染状況に注意したうえで)を中心に研究を推進する。加えて、研究会などで建築学や歴史学などの他分野との連携を深め、帝国期の建築物のライフヒストリーという観点から、分析を深める。その一環として本科研のメンバーや建築学や歴史学の専門家とともにここまでの成果を書籍化、我々の問題意識を多くの専門家を本研究に巻き込むことで、理論的課題に関する視野を広げ、分析の向上をはかっていきたい。 国内調査では、代表者・分担者がいる北海道、九州北部、中国地方を中心に積極的に調査を実施する。代表者がいる広島県では、帝国期の建築物であり、被爆建物のである旧被服支廠の存廃をめぐって議論が巻き起こっており、この建築物のライフヒストリーという観点から理解を含め、国内の重要な事例研究としたい。なお、沖縄の感染状況に鑑みながら、沖縄島とは異なる歴史認識を持つ離島における「日本」認識を建築物の在り様からさらに資料の収集を行っていく。これらの調査では、ダークツーリズム、モノのエージェンシー、政治的環境と建築物の存廃を理論的課題として取り組む。 2022年1月から3月においては、可能であれば、国外調査を積極的に実施し、理論的な課題について、また日本国内の事例との比較を行っていく。加えて、帝国期の建築物を「モダン」とみなす東アジアの我々の意識についても検討を深める。
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