研究課題/領域番号 |
19H01483
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松島 法明 大阪大学, 社会経済研究所, 教授 (80334879)
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研究分担者 |
中川 晶比兒 北海道大学, 法学研究科, 教授 (20378516)
北村 紘 京都産業大学, 経済学部, 教授 (30582415)
篠原 隆介 法政大学, 経済学部, 教授 (40402094)
水野 倫理 神戸大学, 経済学研究科, 准教授 (60589315)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 寡占市場 / 個人情報 / 価格差別 |
研究実績の概要 |
主に、各種情報の利用が寡占市場の競争や経済厚生に与える影響について理論分析を行った。2020年度中に実施した中から主要な成果のみ記載する。 1.2019年度中にChoe and Matsushima (2020, ISER DP 1079)をDPとして公開したが、2020年8月に国際学術誌に受理された。ここでは購買履歴を利用して新規顧客向け割引ができる市場を想定して水平差別化戦略を検討した結果、可能な限り差別化するのが最適であることを示した。 2.消費者情報の獲得に役立つ製品(例、健康情報を収集できる製品)を販売する市場と情報を直接活用できる市場(例、健康関連サービス提供)の相互依存関係を検討するため、これら両方の市場に参入して情報を利活用できる企業の存在が経済厚生に与える影響を分析した。特定の企業だけが両市場に参入して情報の利活用をした上で個別製品を個別価格で提供できる競争環境では、情報の利活用によりサービスの質が向上する程度が高くなるほど市場拡大の誘因が強まって独占化による弊害が生じる可能性が高いことを示すなど、市場横断型のデータ活用に対する競争政策上の懸念を示した。この成果をChen, Choe, Chog, and Matsushima (2021, ISER DP 1108)としてまとめ、2021年3月に国際学術誌から改訂要求を受けた。 3.技術投資により情報漏出が生じうる複占市場を設定し、情報漏出の様態と企業組織構造の関係について理論分析した。競争構造を4つに分類して、各分類に当てはまる情報漏出の構造と各分類で実現しやすい組織形態(技術部門の分離が生じやすいか否か)を整理した。この成果をMacho-Stadler, Matsushima, and Shinohara (2020, ISER DP 1069RR)としてまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
既に立ち上げていた研究課題は、定評ある国際学術誌から改訂要求を受けたことをはじめ順調に進んでいる。しかし、2020年度中に実施できず、研究費の一部を2021年度に繰り越して実施する予定だった研究は渡航制限により実施できなかった。これにより新規の課題を進めることが当初想定していたよりも難しくなった。「おおむね順調に進展している」を選択したものの、新規課題の推進には課題が残っている。
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今後の研究の推進方策 |
市場横断型のデータ活用を議論したChen, Choe, Chog, and Matsushima (2021)の設定は真新しいので、この設定を活かすことが考えられる。例えば、消費者が個人情報の管理を行うことで企業による個別価格の提示を阻止できることや、 企業が既存顧客向けに提示している価格の他に新規顧客向けの低価格も提示している時に、既存顧客が企業に対して新規顧客向けの低価格で再契約することを交渉することなどが考えられる。 他、ほとんどの先行研究では個別価格に競争促進効果があることを明らかにしているが、この先行研究の結果とは異なり、個別価格が利用できることで競争が緩和されて消費者厚生が悪化する市場構造を明らかにすることも必要とされる。 また、独占のデータブローカーが存在する時のデータ販売方法と、データの利活用が企業間の競争に与える影響についても検討する必要がある。
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