研究実績の概要 |
主に、各種情報の利用が寡占市場の競争や経済厚生に与える影響について理論分析を行った。2021年度中の成果から主要なものを記載する。 1.2020年度中にディスカッションペーパー(DP)としてChen, Choe, Chog, and Matsushima (2021, ISER DP 1108)を公開したが、2021年8月国際学術誌に受理され、年度中に発刊された。ここでは消費者情報の獲得に役立つ製品(例、健康情報を収集できる製品)を販売する市場と情報を直接活用できる市場(例、健康関連サービス提供)の相互依存関係を検討し、特定企業のみ両市場に参入して情報の利活用をして個別製品を個別価格で提供できる競争環境では、情報の利活用によるサービスの質向上が見込まれると市場拡大の誘因が強まって独占化による弊害が生じる危険性が高いことを示すなど、市場横断型のデータ活用に対する競争政策上の懸念を示した。 2.2020年度中にDPとしてMacho-Stadler, Matsushima, and Shinohara (2020, ISER DP 1069RR)を公開したが、2021年度中に国際学術誌に発刊された。 3.2019年度中にDPとしてChoe, Matsushima, and Tremblay (2020, ISER DP 1083)を公開したが、国際学術誌での改訂要求を受けて様々な拡張を行った。ここでは、企業が単独で有する個人情報は競争優位をもたらすにもかかわらず、Choe, King, and Matsushima (2018)が分析した2期間の設定では、競争関係にある企業間で個人情報を共有する誘因があり、結果として消費者厚生が損なわれることを既に示していたが、この結果は一部消費者の選好が時点間で変化しても成立し続けるなど、結果が成立する市場環境を明確化できた。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の方策でも述べている通り、市場横断型のデータ活用を議論したChen, Choe, Chog, and Matsushima (2021)の設定は真新しく、この設定を活かすことが考えられる。例えば、消費者がデータ管理する権利を活かして企業が個人情報を利用した個別価格を提示できなくすることが、競争環境や消費者厚生に与える影響を分析することは、最近のデータに対する消費者の権利が保証されている状況を踏まえると重要な問題設定といえる。他、データ利活用を目的とした市場横断型合併も研究の視野に入るだろう。 多くの先行研究と異なり個別価格が設定できることで競争が緩和されて消費者厚生が悪化する市場構造を明らかにすることも必要であることを受けて、2021年度の後半に研究分担者と分析を開始しており、この課題に今年度も引き続き取り組む。 独占のデータブローカーが存在する時の販売方法についても検討する必要がある。 他、Choe, Matsushima, and Tremblay (2020)で検討した競合企業間の情報共有について、情報共有の方法を工夫することで、情報共有が起こる競争環境を更に明らかにする必要がある。
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