研究課題/領域番号 |
19H01515
|
研究機関 | 総合地球環境学研究所 |
研究代表者 |
杉原 薫 総合地球環境学研究所, 研究部, 特任教授 (60117950)
|
研究分担者 |
西村 雄志 関西大学, 経済学部, 教授 (10412420)
鈴木 英明 国立民族学博物館, グローバル現象研究部, 准教授 (80626317)
坪田 建明 東洋大学, 国際学部, 准教授 (50546728)
小林 篤史 京都大学, 東南アジア地域研究研究所, 助教 (40750435)
小林 和夫 早稲田大学, 政治経済学術院, 准教授 (00823189)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | インド洋交易史 / グローバル・ヒストリー / 貿易統計 / 経済発展径路 / 植民地化 |
研究実績の概要 |
2019年度には、3回の研究会を開催した。主なプログラムは次のとおり。第1回(6月22日, RIHN)神田さやこ(慶応義塾大学)「近世から近代への移行期のインド」リスポンス:小川道大(金沢大学)、鈴木英明「19世紀インド洋西海域における奴隷交易とその廃絶活動」コメント:小林和夫、坪田建明 “Regional Disintegration in South Asia: Evidence from the End of the British Empire on Maritime Networks”コメント:小林篤史:第2回(8月8日, GRIPS)Sugihara “Indian Ocean Trade, 1910-1950”, Osei Oteng-Asante (IDE) “West African Trade Integration and Dynamics/Convergence of Unit Prices: 1880-1940”: 第3回(2020年2月18日,RIHN)杉原「流通ネクサスとしての中継港と連関効果論」、水島司(東京大学)「インド国勢調査以前の人口動態について」コメント:宇佐美好文(東京大学)、小林篤史「英領ベンガル管区の国際貿易の発展、1800-74年:貿易物価指数による分析」コメント: 西村雄志、小林和夫「近代世界経済の興隆と西アフリカ、1700-1850年」コメント:北川勝彦(関西大学)。 杉原は、イギリスに出張し、協力者(Gareth Austin, Tirthankar Roy)との研究交流を行うとともに、国内の関連研究会でも成果を報告した(環インド洋熱帯地域の複数発展径路研究会11月、京都大学東南アジア地域研究研究所研究会12月、龍谷大学南アジア地域研究拠点(RINDAS)研究会2月)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一に、インド洋交易圏および東アジアの26の国・地域の貿易構造の変遷を推計するため、4つのベンチマーク年 (1910年、1928年、1938年、1950年)を設定し、諸地域の輸出規模と、輸出総額に占める地域交易の比重を算出した。研究史的に新しい作業は、沿岸交易や地域内のハブになる港とその周辺の交易を統計上で統合することである。1928年まではインド洋交易圏は明らかに拡張しており、貿易全体に対する域内交易の比重も大きいことがわかった。 第二に、従来のアジア間貿易額(杉原による1996年推計)では東南アジア域内交易が捨象されていたため、インド洋交易圏の比率も過小評価されていたと思われることを受けて、マラヤを中心とする東南アジアの域内交易のデータを整理しなおした。すなわち、海峡植民地間の交易、英領マラヤの州間交易、さらに海峡植民地の諸港と英領マラヤの諸州との交易を吟味することによって、これまで輸出のほとんどがごく少数の欧米向け第一次産品からなる典型的な「第一次産品輸出経済」とされてきたこの地域の交易構造が、実際には多様で繊細なローカル・ネットワークによって補完されており、それらを考慮した域内交易比率はかなり高くなることが判明した。 第三に、アデン、ザンジバルなどのデータを吟味した。研究協力者と共同で、インド、ザンジバルのデータを確認するとともに、アデンのインド洋交易圏における役割の検討を開始した。 第四に、マダガスカルなどの仏領植民地間にもインド洋交易圏のネットワークが存在することが明らかとなった。 これらの作業から、インド洋交易圏が、シンガポール、ペナン、アデン、ザンジバルなどの中継港によって、よりローカルな商業ネットワークと結びついており、しかも20世紀においてもその趨勢は、全体としては維持されていたことが明らかとなった。
|
今後の研究の推進方策 |
第一に、2020年度もインド洋交易圏および東アジアの26の国・地域の貿易構造の数量的検討を続ける。1910年以前の時期のベンチマーク年を確定し、19世紀後半のデータの所在状況を確認していきたい。そのため、引き続き、British Libraryから取り寄せたデータの追加収集とその整理を行う。 第二に、アデンの貿易構造を吟味し、その北東アフリカおよびアラビア半島における中継港としての役割を明らかにしたい。すでに、東アフリカについては、ザンジバルの中継港としての地位は、しだいに大陸諸港にとってかわられたことが明らかになりつつあるが、アデンは、英領インドの一部として間接にイギリスに支配され、インド人商人の役割が強かったことから、スエズ運河の開通にもかかわらず、インド洋交易圏のハブとしての役割をより長く維持したものと考えられる。こうした仮説を検証し、その意味を検討したい。また、両大戦間期には、北東・東アフリカにも大量の日本製綿製品が輸入されるようになった。インド洋交易圏における日本の役割についても検討を始めたい。 第三に、2020年度も3回程度の研究会を開催し、成果を共有したい。 なお、2019年度に予定していた国際セミナーについては、アフリカ研究の専門家の来日がかなわず、資金を繰り越して、本年度に行うこととした。研究は順調に進捗しているので、海外の研究者との交流は活発に行いたい。ただし、国際セミナーの開催や時期についてはコロナ感染の状況などを見て、慎重に判断したい。British Libraryや移動制限の状況によっては、資金をリサーチ・アシスタントの雇用に回し、すでに入手した統計の入力、加工作業の比率を上げることも考えられる。
|