研究課題/領域番号 |
19H01636
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
山住 勝広 関西大学, 文学部, 教授 (50243283)
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研究分担者 |
冨澤 美千子 横浜美術大学, 美術学部, 教授 (90810680)
山田 直之 関西大学, 文学部, 准教授 (90825738)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 教師教育 / 教師の専門性開発 / 活動理論 / 拡張的学習 / 形成的介入 / 変革的エージェンシー / 組織学習 / 学校改革 |
研究実績の概要 |
本年度は、まず、前年度に収集したデータ、すなわち大阪教育大学附属天王寺小学校の副校長、教務主任・研究部長、研究部担当の4人の教諭、そして本研究の研究代表者、研究分担者2人の計9人が参加して7回実施した研究会議の録画・録音データを用い、焦点となるデータを確定して、教師たちの「拡張的学習」がいかに生成し、変化の担い手としての教師の「変革的エージェンシー」が拡張的学習のプロセスを通してどのように形成されていったのかについて分析を行い、結果を英文書籍においてまとめていった。 次に、教師たちが自分たちの学校の「活動システム」を自分たち自身で集団的にデザインし直し、新たに転換していく拡張的学習を促進・支援する「形成的介入」の研究方法論について、「文化・歴史的活動理論」の枠組みを用いて明らかにしていった。活動理論にもとづく形成的介入は、従来の標準的な教育学と教育研究に組み込まれている支配的な介入観(すなわち、直接的な「刺激→反応」といった因果図式にもとづく上からの介入のリニアなデザイン)を方法論的に問い直し、教育実践の担い手たちが自分たち自身で協働して変革を起こすことの促進・支援へと、教育学と教育研究を方法論的に転回させるものである。そうした活動理論的な形成的介入の鍵となるのは、活動のエージェント(担い手)たちが、目の前の実践の中にある矛盾に直面することから始まり、協働の問題分析を自分たち自身で進めることによって、自分たち自身の未来をデザインし具現化していく下からの拡張的学習のプロセスを呼び起し、促進・支援することである。 こうした教育学の新たな研究方法論としての形成的介入の具体的なあり方を明らかにするために、新潟県上越市立大町小学校において、学級便りや活動レポートをもち寄ってなされる対話のセッションとして取り組まれている校内研究に注目し、データの収集と分析を進めていった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、まず、「文化・歴史的活動理論」と「拡張的学習理論」の枠組みにもとづき、教師の新たな専門性を「拡張的学習者としての教師/変化の担い手としての教師」として概念化した上で、そうした教師の新たな専門性を呼び起こし、促進・支援することのできる「形成的介入」の方法論的な原理と具体的な方法を明らかにしようとするものである。いわば教育学の新たな研究方法論としての形成的介入では、教育実践の担い手たち自身が変化の主導権を握り、学校の未来をデザインし生成していく「拡張的学習」のプロセスを促進・支援しようとするものである。そのことによって、形成的介入は、活動のエージェント(担い手)たちが、自分たちの活動システムを自分たち自身で転換・形成していく「変革的エージェンシー」を獲得して拡張していき、介入プロセスの主導権を握っていくような、「私たち自身による協働の介入」を呼び起こすことを、方法論的原理としているのである。本研究のこの側面、すなわち理論的・方法論的研究の側面は、順調な進展を見せている。 また、本研究のこれまでの成果については、英文書籍の刊行においてすでに論文化して取りまとめ、広く国際的な公表を達成している。 次に、こうした成果を基盤にした実証的な研究の側面では、コロナ禍のため、学校現場に赴いての実地調査は断念せざるをえなかったが、Zoomを使い、学校現場と遠隔でオンラインの話し合いを持続的に行い、また学校にデータの収集を依頼して、必要なデータの蓄積とその分析を十分に進めることができている。 以上から、本研究は、当初の計画以上に進展しているということができる。
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今後の研究の推進方策 |
今後、これまでに収集した、新潟県上越市立大町小学校の校内研究に関するデータを集約し、学級便りや活動レポートをもち寄ってなされるセッションにおける教師たちの「拡張的学習」のプロセスについて、教師の新たな専門性に関して構築した概念的枠組みと関連づけた緻密な分析を行っていく。そのさい、教師たちが自分たちの学校の教育活動や未来の学校づくりに関する新しい概念、すなわち「いまだここにない」ような文化的に新しい概念を協働で形成していくプロセスを、教師たち自身の拡張的学習としてとらえることに焦点化する。 また、同様に、「拡張的学習者としての教師/変化の担い手としての教師」をキーコンセプトとした教師の新たな専門性の開発に関するデータの収集と分析を、岐阜県岐阜市立長良小学校において継続的に行っていく。そこでは、2020年度から使用が始まった新校舎の新たな環境デザインに対して、子どもたちの自主性と連帯性と創造性を基盤にした教育実践をどう適合・融合させていくのかという問題を解決する、教師たち自身の「拡張的学習」と新たな教育実践の創造、そして未来の学校づくりに焦点化した分析を進める。 こうして、概念的研究(教師の専門性概念の転換)と介入的研究(教師の「拡張的学習」と「変革的エージェンシー」への「形成的介入」の結果)を統合し、教師の専門性とその開発に関する新たな発見を生み出していく。また、本研究課題の研究成果をふまえ、教師の専門性とその開発に関する新たな展望と方策を提起する。 以上の推進方策のもと、得られた研究成果については、国内学会と国際会議でまとめの口頭発表を行うとともに、査読付英文国際学術雑誌に総括的な論文を投稿する。
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