研究課題/領域番号 |
19H01697
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
鄭 仁豪 筑波大学, 人間系, 教授 (80265529)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 聴覚障害者 / 視覚的情報 / 選択的注意 / 周辺視活用 / 探索方略 / 眼球運動 / 言語モード |
研究実績の概要 |
今年度(2019年度)の研究では、聴覚障害者の視覚的情報の受容と活用を、選択的注意課題と周辺視活用課題の処理方略の側面から、聴覚障害者の言語モードの個人差に基づき、検討した。 実験では、口話と手話を併用している聴覚障害者19名と健聴者8名の、計27名を対象とし、聴覚障害者は、対象者本人の判断により、口話優位群7名、口話手話同等群6名、手話優位群6名に分けられた。なお、聴覚障害者は全員裸耳の平均聴力レベルが85dBHL以上の先天性重度の聴覚障害者であった。実験は、両課題遂行時に見られる対象者の眼球運動を非接触型眼球運動測定装置Tobii Pro スペクトラム(150Hz)により測定し、分析を行った。 研究の結果、選択的注意課題(刺激検出課題)では、口話手話同等群は、健聴者より、素早く反応し、全視野における視覚的注意が敏感であることが確認された。また、周辺視活用課題(視覚探索課題)では、負荷の少ない(難易度が低い)課題では、対象者間の差は見られないものの、負荷の中程度(難易度がやや高い)課題では、聴覚障害者の反応時間が健聴者より反応時間と探索効率は、健聴者より速く効率的であることが示された。この特徴は、負荷がさらに高い課題(難易度高の課題)では、聴覚障害者の反応時間と探索効率は、健聴者と同じレベルになることが示された。探索方略では、「全体を眺める」「特定場所を集中的にみる」「回りながらみる」の3つの方略が抽出され、口話優位群、口話手話同等群、健聴者群では「全体をみる」方略が、手話優位群では「回りながらみる」方略が、多用されていた。 このことから、聴覚障害者はある程度の難易度の課題では、健聴者に比べて、視覚的受容と活用において敏感であり、効率的に対応できること、また、課題解決方略においては、口話と手話という言語モードによる解決方略の違いがある可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
視覚的情報の受容と活用について検討を行う今年度の目標は、一定の結果を見いだしていることから、概ね達成できていると評価した。今年度の結果として、中程度の難易度においては、健聴者より、聴覚障害者の視覚的活用の敏感さがその特徴として示されたこと、また、探索方略として、手話を主な言語モードとして使用する聴覚障害者と、音声に基盤を置くあるいは音声を活用する聴覚障害者とでは、異なる方略の使用が認められたことは、聴覚障害者における視覚的情報の活用の新たな特徴を示す研究結果となった。 しかし、2月から予定されていた特別支援学校(聴覚障害)の高等部および専攻科での実験が、コロナウイルス感染症の影響を受け、実施できず、データの数では、限られたデータに基づく分析となった。 今年度予定されていた特別支援学校(聴覚障害)の高等部および専攻科における実験は、次年度のしかるべき時期に実施させていただくことで、依頼先の特別支援学校との話し合いの中で確認している。今年度の結果に大きな影響を及ぼすことはないと推察されるが、次年度得られたデータは今年度のデータと合わせ、再度検討する予定である。同様に、今年度の研究成果を教育現場で活用する可能性に関する検討も、教育現場のコロナウイルス感染症の対策のため、実施が不可能であったが、これについても引き続き、次年度にご協力をいただくことで、依頼済みである。
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今後の研究の推進方策 |
聴覚障害者の視覚的情報の活用とその特徴については、聴覚障害者の個人差の大きさなどから、その実態が十分に把握されているとは言い難い。 本研究(全体)では、聴覚障害者の言語モードの違いに着目し、視覚的情報の受容と活用を究明するために、研究1(令和元年度)では、選択的注意と周辺視活用について、研究2(令和2年度)では、知覚的方略と特徴について、研究3(令和3年度)では、視覚的記憶の方略について、研究4(令和4年度)では、視覚的問題の解決方略とその特徴について、研究5(令和5年度)研究1から研究4までの研究成果に言語モードと認知特性に基づく、教育現場で活用できる指導事例集の刊行を行う予定である。 次年度にも、コロナウイルス感染症による実験実施への影響が、考えられるところであるが、特別支援学校(聴覚障害)などの各教育現場に対しては、可能な範囲でご協力いただくこと、また大学等の高等教育機関でのデータ収集などもの工夫をしながら、研究を実施していく予定である。
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