研究課題/領域番号 |
19H01697
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
鄭 仁豪 筑波大学, 人間系, 教授 (80265529)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 聴覚障害者 / 絵物語 / 眼球運動 / 即時自由再生 / 言語力 / 言語モード |
研究実績の概要 |
今年(2022年)度の研究では、聴覚障害者の視覚的非言語性認知課題の理解と処理方略の特徴を、4コマ絵からなる物語を用いて、言語力(言語力高・言語力低)と言語モード(口話優位・手話優位)の側面から、検討した。 対象者は、特別支援学校(聴覚障害)高等部と専攻科に在籍する口話手話併用の聴覚障害生徒57名(裸耳の平均聴力レベル90dB以上)であった。対象者は、言語モードと言語力の2要因に基づき、口話優位言語力高群21名、口話優位言語力低群10名、手話優位言語力高群15名、手話優位言語力低群11名に分類された。課題は、起承転結の構造を有する4コマ絵からなる物語2種類を各2分間で読ませ、読んでいる間の眼球運動を測定するとともに、読み終わってから物語内容に関する即時自由再生を行った。課題遂行時の対象者の眼球運動は非接触型眼球運動測定装置 Tobii Proスペクトラムにより測定した。 分析は、4つの群における眼球運動変数(注視点数・平均注視時間・物語構造別注視時間)と再生変数(全体物語・物語構造別の再生率)の5つの側面について、Kruskal-Wallis検定により、群間の差を比較した。 研究の結果、再生変数(全体物語・物語構造別の再生率)については群間の差は示されなかった。しかし、眼球運動変数(注視点数・平均注視時間・物語構造別注視時間)においては手話優位群が口話優位群に比べて注視点が少なく、平均注視時間や物語構造別注視時間の承転の構造において手話優位群が口話優位群に比べて時間が短いことが示された。このことは、従来から言われている手話優位群の視覚的認知能力の高さを示すものと推察された。今回の研究の結果、理解しやすい非言語的認知課題の理解に関しては、言語力や言語モードによる差は見られないこと、しかし、課題の処理方略においては言語モードによる違いが示されることが窺えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究課題全体では、聴覚障害者の視覚的非言語性認知課題の処理方略を、言語力と言語モードに基づいて、検討するものである。 2019年度の研究では、聴覚障害者の視覚的注視課題の方略と特徴を、選択的注意課題と周辺視課題から検討し、健聴者との違いや言語モードによる処理方略の違いを明らかにした。2020年度の研究では、聴覚障害者の視覚的認知処理課題の方略と特徴を、視覚的イメージ課題とメンタルローテーション課題から検討し、言語力と言語モードによる方略の相違を明らかにした。2021年度の研究では、聴覚障害者の空間性記憶課題の記憶方略と特徴について、Corsi-Block課題のForwardとBackward課題を用いて検討し、言語力による記憶力や記憶方略の差は見られないこと、しかし言語モードによる方略の違いが示されることを究明した。 本年(2022年)度の研究では、聴覚障害者の視覚的問題解決課題の処理方略と特徴について、絵物語を用いて検討した。研究の結果、問題解決の結果は言語力や言語モードの相違は示されないものの、問題解決の過程は言語モードにより異なる特徴があることが示された。 なお、コロナ感染症の影響により、研究の実施に際しては、研究協力機関と調整の上、予定を少し変更し行う等の工夫を行った。その結果、2021年の研究データの一部は2022年度の前半に実施した。また、2022年度の研究においても研究協力機関の状況が続いたので、研究協力機関との調整の上、2022年度の研究も、2021年度の研究と同様、コロナ感染症の影響により、研究データの確保を2023年前半に実施した。結果として、2021年度ならびに2022年度においては翌年度に入る研究データの収集を行ったものの、全体としては、概ね計画通り、順調に実施できている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、聴覚障害者の視覚的非言語性認知課題の処理方略について総合的に検討するものである。 そのために、第1研究(2019年度)では、選択的注視課題と周辺視課題を用いて、聴覚障害者の視覚的非言語認知課題の注視の方略と特徴について、第2研究 (2020年度)では、心的回転課題と視覚的イメージ生成課題を用いて、聴覚障害者の視覚的非言語認知課題の知覚方略と特徴について、第3研究(2021年度)では、CBT(Corsi-Block Test)を用いて、聴覚障害者の視覚的非言語性認知課題の記憶の方略と特徴について検討を行った。 第4研究(2022年)では、4コマ絵からなる視覚的理解課題を用いて、聴覚障害者の視覚的非言語性認知課題の解決の方略と特徴を、コミュニケーションモードと 言語力の相違の側面から、調べた。また、第5研究(2023年度)では、これまでの第Ⅰ研究から第4研究までの4ヵ年の研究をまとめるとともに、教育現場で用いられている視覚的教材の内容とその活用について調べ、本研究の第Ⅰ研究から第4研究における成果による検証と行うとともに、その活用の効果等について教育現場と情報を共有することを計画している。昨今のコロナ感染症の影響により、教育現場での協力をえることが難しくなった側面はあったものの、コロナ感染症に対する社会的認識の変容や教育現場の感染症対策も万全を期して実施されていることから、第5研究においても、教育現場と十分に相談しながら、研究を実施していく予定である。
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