場面緘黙は話す力があるにも関わらず学校等の社会的状況において話せなくなってしまうことを主な症状とする。これまで日本では場面緘黙についての研究は少なく、実態がまだ十分に明らかになっていない。 本研究は、縦断的調査により場面緘黙児の緘黙症状や不安症状を測定すること、及びこれまで日本語版の標準化が行われていなかったSMQ(場面緘黙質問票)を標準化し、研究や臨床目的で活用しやすくすることを目標とした。幼児から中学生までの場面緘黙児210名から回答を得た。 SMQ(場面緘黙質問票)については、4から12歳の場面緘黙児139名を対象に、定型発達児の先行研究のデータと比較を行った。その結果、日本語版SMQ(SMQ-J)の信頼性と妥当性が確認された。また因子分析の結果、原版である英語版のSMQの3因子構造とは異なり、日本語版では4因子が抽出された。4因子は「社会場面」「家族関連場面」の他、原版の「学校場面」因子が「教師」と「同級生」に区別された。 また緘黙症状以外の行動の困難と不登校・不登園の傾向についても分析した。その結果、幼児から中学生のいずれの年齢群においても「運動」や「排泄」などの何らかの行動の困難が7割以上の対象児に認めらることが明らかになった。さらに調査時点で不登校・不登園の状態になっている者の割合は、幼児4.1%、小学生14.2%、中学生28.2%であり、文部科学省の統計と比較して小学生で約17倍、中学生で約7倍高かったことが示された。緘黙症状に加えて行動の困難や強い不安のある者は不登校等の傾向を示す者が多く、特に中学生では不安の高い者のうち52.4%が調査時点で不登校となっていたことが示された。
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