研究課題/領域番号 |
19H01812
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
吉野 元 大阪大学, サイバーメディアセンター, 准教授 (50335337)
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研究分担者 |
宮崎 州正 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (40449913)
金 鋼 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (20442527)
池田 昌司 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (00731556)
小渕 智之 東京工業大学, 情報理工学院, 助教 (40588448)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ガラス転移 / フラストレート磁性 / スピングラス / 深層ニューラルネットワーク / 機械学習 / 統計的推定 / ジャミング転移 |
研究実績の概要 |
[パイロクロア格子磁性体におけるスピングラス転移] 通常のスピングラスと異なり、外的なランダムネスが無視できるにも関わらず非常にシャープなスピングラス転移がY2Mo2O7パイロクロア型酸化物において実験的に観測され、30年以上にわたってそのメカニズムに興味がもたれてきた。我々はその有効的な理論模型の構築した。この模型では、スピン自由度の他に、実験的に指摘されている格子のひずみに注目し、それを動的自由度として取り込んでいる。具体的には、実験結果からの示唆を元に、パイロクロア格子を構成する各正四面体の頂点にあるモリブデン(Mo)イオンが、正四面体の中心方向にinあるいはoutの変位をするものとした。また、これによってスピン間の相互作用が符号を含めて変化するものとした。この有効模型を微視的に基礎付けるために、酸素(O)イオンを介したスピン自由度(Moイオン上のスピン)間の超交換相互作用をバンド計算、ハバード模型に基づく摂動計算によって第一原理的に計算を行った。この有効模型の大規模数値シミュレーションを行い、スピンと格子の同時ガラス転移を強く示唆する結果を得た。
[深層学習の統計力学] 深層ニューラルネットワークによる機械学習のメカニズムを統計力学的に明らかにするために、ランダム系の統計力学の手法であるレプリカ法を用いて平均場理論を構築した。具体的に、深さL、幅Nのパーセプトロンネットワークを解析した。この系は連続値をとるNxNx L個の結合定数を持つ。ここでM個の入出力データの組みからなる訓練データに適合する一つ一つのネットワークを「解」と呼び、その空間の統計力学を考える。解析の結果、比M/Nの増大とともに、解空間が分裂する相転移(ガラス転移、結晶化に相当)が入出力層近傍から起こること、十分深いネットワークでは中心部分に解空間が分裂していない領域(液体に相当)が残ることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究項目[A]「外的乱れのない純粋なフラストレート磁性体における自発的ガラス転移」については、上記の通り、パイロクロア型酸化物Y2Mo2O7を念頭においた理論模型の構築、大規模数値シミュレーションによる解析を行うことができた。この結果は、すでに論文としてPhys. Rev. Lett. 誌に出版された。(光元、堀田、吉野)
研究項目[B] 「コロイドなど、ソフトマター系における回転自由度のもたらすガラス転移、ジャミング転移」については、は、2つの課題で進展があった。無限大次元での剛体楕円 体系のガラス・ジャミング転移に関するレプリカ理論を定式化することができた。(吉野) この理論によって、一段階のレプリカ対称性の破れ(1RSB)の範囲での理論解析を終えた。現在さらに1RSBを超えた解析を進めている。一方、ダイマー粒子系のガラス状態における振動モード解析について詳細な解析を行い、回転自由度に由来する特異なソフトモードをとらえることに成功した。この結果をまとめた論文はJ. Phys. Soc. Jpn 誌に掲載が決定している。(白石、水野、池田)
研究項目[C] 「密結合ネットワーク上の多成分ベクトル変数を自由度とする情報統計力学」については、2つの課題において進展があった。多成分ベクトル型ビックデータの統計的推定については、レプリカ法に基づく理論解析を行った。(横井、長澤、吉野)また、Approximate Message Passing (AMP)の方法を用いた復号アルゴリズムの構築を進めている。(長澤、小渕、吉野)。さらに、上記のように深層ニューラルネットワークに関する研究を着想し、すでにレプリカ理論の構築と解析を終え、論文としてすでにSci. Post. Phys. Core 誌に出版した。(吉野)
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今後の研究の推進方策 |
[A] 「外的乱れのない純粋なフラストレート磁性体における自発的ガラス転移」乱れのないパイロクロア酸化物Y2MO2O7の有効理論模型に基づき、スピンと軌道自由度の同時ガラス転移に伴う静的ガラス感受率の発散挙動をモンテカルロ・シミュレーションによって解析する。また有効理論模型の微視的基礎づけについて、特にヤ ーン・テラー効果の詳細を明らかにする。(光元、堀田、吉野)
[B] 「コロイドなど、ソフトマター系における回転自由度のもたらすガラス転移、ジャミング転移」無限大次元での剛体楕円 体系のレプリカ理論の解析をさらに進める。特に、異方性の弱い場合からの展開を行い、連続的なレプリカ対 称性の破れを解析する。ジャミングにともなう臨界特性、振動特性が、異方性をパラメータとしてどのように変化するのかを明らか にする。(吉野) 回転・並進自由度の結合によるJG-beta緩和の機構の解析を進める。まず可解な複合自由度の有効スピン模型のFranz-Parisi (FP)ポテンシャル と動的平均場理論の解析を行い、FPポテンシャルの特性とJG-beta緩和機構との関連を明らかにし、分子動力学シミュレーション解析に対する 指針を考察する(吉野、池田、金、宮崎)並行して、剛体楕円体系、ダンベル系のFPポテンシャルの解析を進める(池田、吉野)。さらに相補的な 見方として、振動特性とJG-beta緩和の関連を解析する(池田)。
[C] 「 密結合ネットワーク上の多成分ベクトル変数を自由度とする情報統計力学」多成分ベクトルからなるビックデータの 統計的推定をキャビティ法(AMP)に基づいて行うアルゴリズムを実装する。(長澤、小渕、吉野) 深層ニューラルネットワークによる学習の統計力学的解析のレプリカ理論(Yoshino, 2020)に基づく解析、特にループ補正を取り入れた理論の精密化を試みる。(吉野)
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