研究課題/領域番号 |
19H01906
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小高 裕和 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (50610820)
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研究分担者 |
玉川 徹 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 主任研究員 (20333312)
川島 朋尚 東京大学, 宇宙線研究所, 特任研究員 (90750464)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 中性子星 / 強磁場 / X線偏光 / 符号化イメージング |
研究実績の概要 |
中性子星・ブラックホールのようなコンパクト天体のなかでも、1兆ガウスを超える強磁場を持つ中性子星へのガス降着は、未だ理論的な理解が得られていない、天体物理学の難関問題である。本研究の目的は、この非常に複雑なシステムに対して、実験・理論の両面からこれまでにない手法でアプローチすることで、地上では到底実現できない強磁場のもとで物質と放射が如何に振る舞うかを解明することである。 実験的には、10-30 keVのエネルギー帯域で硬X線偏光観測を実現することを目指して、半導体ピクセル検出器を用いたX線撮像偏光計の開発と小型衛星ミッションの検討を行う。データ解析のためには精密な理論モデルが必要であり、理論的な研究として、強磁場のもとで光子が電子に散乱される過程を正確に計算するモンテカルロシミュレーションを行い、降着プラズマ流の3次元X線放射モデルの開発を行っている。 2020年度計画 (パンデミックにより研究計画を2021年度まで繰越) では、2019年度に確立した「微小ピクセルCMOSイメージセンサ偏光計」と「微細加工による符号化開口マスク」を統合する実用的なシステムを開発・製作した。シンクロトロン放射光施設SPring-8の硬X線ビームを用いて、このシステムの性能評価試験を行い、偏光撮像の概念実証に必要なX線偏光データの2次元天球面スキャンデータセットを取得した。このデータ解析により、当初目的であった2次元偏光撮像の基本概念を確立している。 天体物理学の面では、明るい中性子星連星SMC X-1の「すざく」衛星の時間データの解析を進めたほか、さらに別の中性子星天体「Cen X-3」の「NuSTAR」衛星のデータ解析に取り組んだ。これらの結果から、降着円盤からの反射が重要であることがわかり、モンテカルロシミュレーションによるモデル化を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
X線偏光撮像システムの装置開発は、基盤技術である「微小ピクセルCMOSイメージセンサ」と「微細加工による符号化開口マスク」を前年度に確立しており、今年度計画ではそれらを組み合わせるシステムの製作と実証実験に成功した。このシステムは、新規開発したセンサ読み出し系を導入し、宇宙X線観測に必要なハイレートでの読み出しとデッドタイムの削減を実現しており、単なる概念実証のみでなく、実用性に配慮した開発を進めることができている。 天体物理学の研究も前年度から継続した課題を進めて、明るい降着型中性子星パルサー天体である「SMC X-1」のデータ解析についてモンテカルロシミュレーションを用いたスペクトルモデルの研究と、時系列データ解析を実施した。さらに、天体を追加し、同様に明るい「Cen X-3」の「NuSTAR」衛星の広帯域X線データを解析した。この結果をもとにした新規の長時間観測提案が採択され、その観測も実施済である。これらを通じて、降着円盤がX線放射スペクトルやパルスプロファイルに与える影響が大きいことがわかったため、現在モンテカルロ放射輸送シミュレーションによるモデル化を進めており、新しい研究テーマの創生にもつながると考えている。 以上のように、本研究課題の2本立て研究項目である装置開発と天体物理研究ともに、前年度の実績を踏まえ、概ね計画に沿って進展している。
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今後の研究の推進方策 |
観測装置開発と天体データ解析の両面で、本年度に得られた知見を踏まえて、計画通りに研究を実施する予定である。パンデミックの影響により、2020-2021年度は国際会議での成果発表・海外の共同研究者との対面での議論などができなかったため、今後は状況を見て再開したいと考えている。 X線偏光撮像システムの装置開発では、より実用性の高いシステムの開発を目指す。まず、データ解析手法の高精度化とアルゴリズムの高速化を実施する。また、ハードウェア面では、データレートの削減や放射線耐性など宇宙観測における実現可能性の評価を進める。これらの実現可能性の評価結果を踏まえ、衛星搭載可能なシステムの概念設計検討を行う。 天体物理の研究では、引き続き「すざく」衛星、「NuSTAR」衛星のデータ解析を進めるとともに、まだ考慮されていない重要な物理過程のシミュレーションへの実装を進める。まず具体的な物理過程のアルゴリズムの検討を行い、コードの設計・実装を行う予定である。本年度新たにわかった円盤反射の影響についても定量的な解析方法を開発する。
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