研究課題/領域番号 |
19H02025
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研究機関 | 京都先端科学大学 |
研究代表者 |
松本 龍介 京都先端科学大学, 工学部, 准教授 (80363414)
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研究分担者 |
武富 紳也 佐賀大学, 理工学部, 准教授 (20608096)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 水素脆化 / 格子欠陥 / 材料強度 / 計算力学 / 変形機構 |
研究実績の概要 |
低合金鋼において,水素存在時には破壊の前駆段階で局所的に多量の空孔が生成していることが示されている.本研究では,水素脆化のクライテリオンに局所的な空孔濃度やその分布状態を取り入れる.ここで,水素―空孔―転位(塑性ひずみ)間では強い相互作用を生じるため,空孔分布を知るためには三者の時間発展を同時に解く必要がある.初年度に引き続きR2年度は研究対象を問題の単純化が可能な純鉄とした.主に格子欠陥と水素との相互作用に関するミクロスケール解析を行った.また,実験的研究やマクロスケール解析の立ち上げを引き続き行った.以下に得られた主な成果を示す. 〔ミクロスケール解析〕分子動力学シミュレーションを用いて刃状転位の運動挙動に及ぼす,水素,空孔,空孔水素複合体の影響を調べた.その結果,空孔のみでは刃状転位の運動抵抗にはならず,一方で水素が存在すると刃状転位のモビリティーが大きく低下することが分かった. 〔メゾスケール解析〕水素濃度の影響を考慮した離散転位動力学法により,き裂先端周りでの多数の転位の挙動を評価した. 〔マクロスケール解析〕反応拡散方程式により水素と空孔の拡散と結合の時間発展を取り扱えるようにした.水素と空孔の結合エネルギーには,初年度に第一原理計算によって得た値を用いた. 〔実験〕水素チャージを行った材料に対して,引張変形過程での変形状態をデジタル画像相関法により可視化する基礎検討を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では格子欠陥の運動や破壊に及ぼす水素の直接的な影響だけではなく,水素助長ひずみ誘起空孔を通した水素の間接的な影響も考慮することで,低合金鋼の水素脆化のクライテリオンを明らかにする. R2年度は初年度に引き続き対象を純鉄とし,格子欠陥と水素との相互作用に関する解析に専念した.特に,水素,空孔,空孔水素複合体が刃状転位のモビリティーに与える影響を明らかにした.また,初年度にミクロスケール解析で得た結果を,マイクロスケール解析に反映させるなどスケールブリッジを行っている. 以上のことは,おおむね計画通りであり,本研究は順調に進展していると判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
電子・原子レベルのシミュレーションを用いて,水素存在時の低合金鋼中の転位/空孔の運動挙動をモデル化し,マクロ・メゾスケール解析へとつなげることで,広い時空間スケールで水素―空孔―塑性ひずみ関連破壊現象を紐解く.令和3年度は問題の単純化が可能な純鉄を主な対象とし,格子欠陥と水素との相互作用に関する解析を進める.また,炭素鋼中の水素の挙動に関する基礎検討を開始する.さらに,ミクロスケール解析で得られた結果や実験結果をマクロスケールの解析へと反映させていく. 具体的には,ミクロスケール解析では,転位のモビリティーに及ぼす空孔水素複合体のサイズ/濃度/水素数の影響をより詳細に解析する.また,炭素鋼に対してマクロスケール解析で不可欠な水素の拡散係数の評価を行う.メゾスケール解析では,離散転位力学法の転位運動則(せん断応力―運動速度関係)への空孔/水素濃度の影響の導入を進める.マクロスケール解析では非定常水素/空孔拡散―弾塑性連成解析に取り掛かる.
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備考 |
「JACM Fellows Award」を受賞 Ryosuke Matsumoto, For the excellent achievements and contributions to the field of computational mechanics, Japan Association for Computational Mechanics (JACM), 2020-7-22.
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