研究課題/領域番号 |
19H02654
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
簡 梅芳 東北大学, 環境科学研究科, 助教 (20533186)
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研究分担者 |
井上 千弘 東北大学, 環境科学研究科, 教授 (30271878)
菅原 一輝 成蹊大学, 理工学部, 助教 (60792405)
久保田 健吾 東北大学, 工学研究科, 准教授 (80455807)
飯塚 淳 東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (70451862)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | レアメタル / 生物回収 / モリブデン / ニッケル / コバルト |
研究実績の概要 |
本研究は、金属応答性生物資源の発掘、生物工学的手法を駆使した高集積度・高特異性の金属吸着酵母の創出および金属濃縮・回収バイオシステムの開発を目的として行っている。生物資源の発掘について、昨年度に引き続き微生物および植物由来の金属応答遺伝子の探索を行っていた。ヒ素の超蓄積植物であるPteris vittataの根から、ヒ酸の取り込み、ヒ酸還元、亜ヒ酸輸送を担うそれぞれの遺伝子の挙動をReal-time PCRにより明らかにし、これらの遺伝子はヒ酸・亜ヒ酸の除去に利用できると考えられる。また、ヒ素の生物学的除去には、植物・微生物による相互作用、また環境による要因も大きく影響する可能性が示唆された。そのほか、金属応答性を持つ微生物を探索した集積培養から、昨年度に有機汚染物の1,4-dioxaneを有効に分解するコンソーシアムを獲得したが、今年度その分解を担っている微生物を昨年度に続きさらに新しく三株の単離に成功し、うちDokdonella sp. TS32株は新規の1,4-dioxane分解菌であった。上記の成果を、英文論文一報掲載し、国内学会における発表3件を行なった。 金属吸着酵母の創出について、昨年度に作成したモリブデンの吸着酵母の発現プロモーターを工夫することにより、吸着能を向上したモリブデン吸着酵母の作成に成功し、さらにアルギン酸ゲルに固定した酵母による吸着の検討を行い、これらの結果は英文国際誌に掲載された。モリブデンのほか、ニッケルとコバルトを対象として、大腸菌が所有する両金属の結合するタンパク遺伝子であるrcnRをPCRにより増殖し、プラスミドに入れて大腸菌に形質転換することに成功した。現在はこのrcnR高発現形質転換大腸菌を用いたニッケル・コバルトの吸着試験を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
レアメタル回収技術の確立を目指した金属応答性生物資源の開発を行なったところ、最初のターゲットとして開始したモリブデン結合タンパクの遺伝子をPCR増幅により入手、モリブデンの吸着酵母の構築およびその後、発現プロモーターの検討により吸着効率の向上も予定通り進めることがてきた。さらに、モリブデンの吸着酵母を固定する方法についても検討を行い、まだ課題が多く残っているが、当初予定していた「生物学的金属回収システム」の原型として作り上げることができた。他のレアメタルの回収に向けた展開として、ニッケル・コバルトを結合する遺伝子も同じPCR増幅により入手でき、すでに遺伝子組換え大腸菌の作成に成功した。 一方、レアメタルではないものの、微生物からはヒ素、そして非金属の有機汚染物である1,4-dioxaneの応答機能・応答微生物の開発まで展開できた。本研究が用いた生物資源開発の手法は有効であることを再確認できた上、当初のターゲット以外の対象にも有効性を示したことがわかった。生物資源がいかに未開発であり、その開発により金属回収のみでなく、汚染物質を分解するなど、様々可能性があることを再確認できた。 以上のことから、当初予期した目標をおおむね達成しているため、順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
金属応答性生物資源の探索について、これまではデータベースから検索し、PCRなど古典的な手法にて金属結合遺伝子を入手してきたが、昨年度は植物や微生物のトランスクリプトム解析やメタゲノム解析を開始し、これまでデータベースになかった遺伝資源の探索にチャレンジしている。まずは当研究グループが扱う経験のあったヒ素の超蓄積植物であるPteris vittataを対象として、ヒ素の結合・輸送遺伝子の特定を試みる。この手法の有効性が証明できたら、他の植物や生物種にも適用することを考える。 レアメタルの回収について、ニッケル・コバルトの結合遺伝子を形質転換した大腸菌を作成したため、今後はさらにこの遺伝子を酵母に組換えすることや、作成した組み換え酵母を用いたニッケル・コバルトの吸着特異性、回収可能な濃度範囲などの性能評価を進める予定である。 生物学的金属回収システムの構築については、吸着酵母による吸着能の安定性および効率の向上を図り、遺伝子導入する方法の検討を継続する。また、作製した金属濃縮酵母を用いた金属回収材料の設計について、反応面積を多く稼げる表面担持による固定材の検討を進める他、微生物付着、脱着の制御ができる材料の検討、そしてシステムの構築を視野に入れて行う。これらの目標を達成できれば、システムに入れるための金属溶液の前処理および回収後の後処理過程についても検討したい。
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