研究実績の概要 |
両端に金属に配位可能なピリジル基を有する燐光発光を示す被覆型白金錯体とルテニウムポルフィリン錯体との共重合によってバイメタロポリマーを得た。この材料において、ポリマー中のRuは一酸化炭素ガスを認識してポリマーを切断する。しかし一酸化炭素ガスに一定時間暴露した結果生じる材料の発光強度を調査したところ、ガス濃度が低濃度・中濃度・高濃度という 3 つの濃度領域で異なる応答性を示し、2 種類の自動調節システムを有することが明らかになった。このシステムのカギとなったのは、ポリマーが構成要素であるモノマーに分解することで初めて発光する仕組みを設けたことと、切断反応速度の濃度依存性が一酸化炭素濃度によって切り替わる金属を用いたことである。これによって、低濃度ではポリマーの切断は生じますが、発光しないオリゴマーが主に生成するため、ポリマーの切断量に比べてモノマーの発生量は少なくなる。今回この両者のずれを用いることで、一酸化炭素が存在しても発光を示さない低濃度領域を生み出すことに成功した。さらに一酸化炭素ガス濃度を高めると、ガス濃度の増加に伴って発光強度が強くなる通常の比例関係を示す領域(中濃度領域)がもたらされた。一方でさらに高い濃度領域では、一酸化炭素と反応できる金属の供給が追い付かなくなり、濃度に依らず一定の発光強度を示すという二段階目の調節システムが実現できた(高濃度領域)。さらに、これら二段階の濃度領域を任意に設定可能であることも示した(Nat. Commun. 2020, 11, 408)。 以上、本研究では、単一の材料にもかかわらず、まるで生体システムのような多段階の自動応答変調システムを実現した。このようなシステムを多様な人工材料に組み入れることは、センサ・コンピュータ・物質生産システムなどが、周りの状況に応じて自律的に応答性や生産性を変化させることが可能となると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は得られた機能性分子ワイヤを用いて、ナノ空間内での合成化学的手法によるビルドアップ型配線を試み,高い再現性を有する分子架橋を実現するとともに、単分子エレクトロニクス素子の開発を目指す。単一分子によるデバイスでは, 電極接合部の不安定性や分子自体の熱的な影響が大きいため, 十分なS/N比(信号雑音比)が得られない。我々はこの問題に対し, 被覆配線分子の高密度・複数配線という手法で解決を試みる。一般に, 独立したn個の電子素子を並列化すると, ランダムノイズが打ち消し合うことでそのS/N比は元の√n倍に向上する。しかしながら共役分子を集積させると,共役鎖間の相互作用により凝集し,物性が低下する。そこで共役鎖を被覆し,独立した共役分子による複数配線(高密度集積化)を行うことにより,S/N比の向上に直結すると考えた。本研究では数10 nmのギャップを有する電極内での重合や錯化反応等の合成化学的手法を採用し,電極表面から被覆された共役分子ユニットを逐次的に組み上げる新奇なビルドアップ型配線方式により,電極間のギャップ距離に依存しない分子配線法の創出を試みるとともに,配線素子内に種々の機能性・発光性・センシング部位を複数導入し,無機材料と異なる入出力信号を発現するnmスケールのケミカルデバイスの創製を目指す。本手法が実現すれば,従来の確率論ではなく,化学反応により分子配線を行うため,一挙に数多くの共役分子による高密度・複数配線が可能となる。さらに,各共役鎖を被覆するため,鎖間の凝集がなく,高い配線効率および再現性が期待されると共に,共役鎖内での電荷移動のみが起こり,高い導電性が得られると期待できる。この被覆分子の配線により,共役鎖は外界から孤立しており共役鎖内のみの伝導測定が可能となり,これまで困難とされてきた共役分子ワイヤの導電機構も明らかになると期待できる。
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