研究課題/領域番号 |
19H02827
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
野村 渉 広島大学, 医系科学研究科(薬), 教授 (80463909)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ゲノム編集 / CRISPR-Cas / 細胞周期 / オフターゲット作用 / タンパク質間相互作用 |
研究実績の概要 |
本研究課題では多様な生物種において利用できるゲノム編集技術であるCRISPR-Cas9について、特に安全性が重要になる応用面での懸念事項であるオフターゲット作用を抑制するためにDNA切断作用とDNA修復機構がどのように関連してオフターゲット作用が現れるか、について独自に見出したAnti-CRISPR+Cdt1の融合タンパク質の作用によるオフターゲット作用抑制をヒントに作用機序を解明し、普遍的原理を探求することを目的としている。研究実施内容として今年度は1. Anti-CRISPR+Cdt1の作用機序の詳細解析、ではDNA切断後に導入される変異を検出する系では検出までに時間がかかるためリアルタイムで検出可能な転写活性系を利用するためにDNA切断活性を持たないCas9変異体(dCas9) に転写活性化ドメインVPRを融合した人工転写因子を構築した。複数の標的に対する転写活性化効果があることが確認された。2. 蛍光観察によるDNA修復関連タンパク質の作用機構の解明、では、Anti-CRISPR+Cdt1に蛍光タンパク質mKOを融合させた場合に細胞核内への局在を観察し、経時的に蛍光強度が増減することが確認された。DNA修復時に連動してEGFPの発現が変化する系が構築できた。3. Anti-CRISPR-Cdt1によるオフターゲット抑制作用のゲノムワイド解析、についてはSpCas9とAcrIIA4-Cdt1によるゲノム編集において標的の標的遺伝子に対する作用とオフターゲット候補配列を用いてオフターゲット作用について検証を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度に実施予定であった3項目の研究内容についてすべて実施することができた。また実施した結果、転写活性化ドメインであるVPRと切断不活性型dCas9の融合体については想定通りの動作を確認することができ、次年度以降の研究の加速につながる結果を得ることができている。mKOとCdt1の融合体については核内での局在や細胞周期に応じた発現量変動が確認されていたが、改めてゲノム編集作用のリアルタイム観察にも利用できる可能性を見出すことができた。またオフターゲット作用のゲノムワイド解析についても着手して進展が見られている。以上のことからこのように進捗状況を評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究実施項目として以下の3項目を予定している。1. SpCas9に対するAcrIIA4以外の作用解析:SpCas9のDNA切断はAcrIIA4が最も効率的に阻害することが報告されている。しかし、阻害だけでなく細胞周期に応じた結合による阻害と解離によるCas9の活性化を繰り返すAnti-CRISPR+Cdt1を組み合わせる場合、強力な阻害効果が適当であるとは限らない。AcrIIA1~A3についてもCdt1融合タンパク質を構築し、オフターゲット作用の抑制効果を検討する。2. Cas9誘導体に対するAnti-CRISPR+Cdt1による活性制御の拡張:Cas9はsgRNAによって標的配列を特異的に切断できる性質に加え、変異体である切断活性を持たないdCas9は配列特異的に働くDNA結合ドメインとしてDNAメチル化やデアミナーゼによる塩基変換などに活用されている。これらの酵素においてもオフターゲット作用は問題であるため、Anti-CRISPR+Cdt1を適用し、利用の拡張性を検討する。3. Anti-CRISPRタンパク質の候補遺伝子の探索:重要なCas9類似タンパク質であるNmCas9、Cpf1、Cas13aについてその由来生物ゲノムにおけるCRISPRコード領域近辺からホモロジー検索で候補遺伝子を探索する。以上の3項目に加えて、前年度から着手しているゲノムワイドオフターゲット作用検証についてもさらに進展させる予定である。
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