研究課題/領域番号 |
19H02846
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小松 徹 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 特任助教 (40599172)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ケミカルバイオロジー / 創薬化学 |
研究実績の概要 |
これまで,疾患と関わるタンパク質の機能異常を正しく理解する技術として,genomics,transcriptomics,proteomicsなどの様々な網羅的解析の方法論が確立され,新たなバイオマーカー,創薬標的の発見に多大な貢献をしてきた.しかしながら,酵素をはじめとする生体内のタンパク質の機能は,翻訳後修飾,タンパク質間相互作用などによる動的な制御を受けており,既存の網羅的解析から見出される変化が必ずしも病態と関係しない例も多々報告されている.これに対し,本研究課題では,酵素が生体内で発揮する動的機能そのものである「酵素活性」を網羅的に解析することで,より病態に近いレベルでの変化から新たな疾患関連タンパク質を探索する「enzymomics(enzymeのomics)」の方法論を開発し ,疾患の診断,治療に直結する疾患関連タンパク質の機能異常を明らかにすることを目指して研究をおこなってきた. これまでの研究実績として,概念実証がおこなわれたenzymomicsの実験系について,その高感度化,網羅性の向上を図る各種方法論開発をおこなった. 高感度化については,1分子レベルの酵素活性解析をおこなうための研究プラットフォームを充実させ,血液中での酵素活性検出を可能とし,これを用いて疾患の診断に利用可能性が期待できる複数のバイオマーカー候補タンパク質を見出すことに成功した. 網羅性については,蛍光プローブの設計原理が確立されている各種加水分解酵素の活性だけでなく,生細胞を用いたカップルドアッセイの仕組みを確立することで,より多様な酵素のはたらきを可視化する仕組みを確立することに成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
酵素活性を網羅的に探索する方法論「enzymomics」の各種実験系の開発をおこない,感度,網羅性の向上に資する技術開発をおこなうことを達成した.これによって,実用的なレベルでのenzymomics研究の実施が可能となることが期待される. 特に網羅性の向上に関しては,がん細胞で亢進が見られる種々の代謝活性を広く一般的に可視化する方法論を確立し,これを制御する薬剤候補化合物を複数見出すことにも成功しており(論文採択決定済),実際に代謝過程の発見から実用的な応用研究までの道筋を示すことに成功したと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
本研究では, enzymomicsの方法論の概念実証の成果を受け,その高度化,一般化の先に実際の疾患の治療,診断への応用までの過程を一気通貫に達成することを目指す.そして,このための基盤技術の確立のため,特に,「網羅性」「感度」の大幅な向上を目指した技術開発をおこなう. 昨年度までの研究で,種々の酵素活性を網羅的に高感度で可視化するための蛍光プローブを開発する一般的な方法論を確立し,これを用いた疾患関連タンパク質の探索研究を進めてきた.本年度の研究において,より多様な疾患由来サンプルを用いたenzymomics研究を実施し,がんをはじめとする各種疾患に関連する代謝異常を見出すことを目指す.また,本研究のまとめとして,これらの酵素活性の異常の理解を,実際の疾患の診断,治療に活かす橋渡し研究に向けて求められる技術の高度化,一般化を進めていく.
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