ストレス顆粒を構成する主要タンパク質TIA1の顆粒形成機構について新たな知見を明らかにした.従来まではTIA1のC末端部にある天然変性領域間(Low Complexity Domain: LCD)での相互作用が液液相分離による顆粒型性を担うとされたが,今回の研究からLCDはN末端部にある3つのRNA結合ドメイン(RRM)と相互作用することにより,顆粒型性を促進することをみつけた.さらに興味深いことに3つのドメインの寄与は均等ではなく,2番目のドメインが最も高い親和性を示すことを見いだした.LCD-RRMの分子間相互作用が顆粒型性の初期過程の初期に係わる新たな機構を提唱する. 近接標識法を応用してストレス顆粒が解消してゆく過程のタンパク質の動態変化を観測した.具体的には,ストレス誘導後一定時間後にストレス刺激を除き,時間を変えてに光を照射して時間発展的にプロテオミクス解析を行った.詳細な解析は現在進行中であるが,ストレス顆粒形成・顆粒内機能に係わるとされる複数のタンパク質が段階的に減衰する特徴的な挙動が観測された.ストレス顆粒の解消過程に着目した時分割プロテオミクス解析は過去に例がなく,ストレス顆粒形成制御機構の新たな知見を明らかにすることができる. B型肝炎ウイルス(HBV)の複製に液液相分離が係わることを本研究の過程で発見し,今期はその役割についても集中的に研究を進めた.プロテオミクス解析によりB型肝炎ウイルスの内殻タンパク質HBcに物理的に結合するタンパク質として同定されたCPSF6は試験管内で液液相分離により液滴構造を形成する.今期の研究は細胞内でも液滴構造を形成することが確認でき,細胞内で形成されるCPSF6液滴にもHBcが集積することを確認した.HBcの細胞内発現量の増加と共に,CPSF6液滴内への局在も増加することが明らかになった.新たなHBV複製機構を提唱する.
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