研究課題
本研究では、忘却の実行と制御機構について、遺伝学的な解析とイメージングとを組み合わせて解明することを目指している。本年度の実績の概要は以下の通りである。(1)忘却を促進する神経ペプチドについて、その候補を探し、ペプチド遺伝子とその受容体の可能性がある遺伝子の変異体を解析したところ、忘却に関わっていないことが明らかになった。(2)忘却を促進している神経細胞で特異的に発現する遺伝子を、線虫のシングルセルRNAシークエンスのデータベースから探索したところ、未知のペプチドをコードしている可能性がある遺伝子を複数同定した。(3)忘却を抑制するシグナル経路の遺伝学的な解析を進めた結果、想起を促進するシグナル経路がある可能性を示唆する結果をえた。想起を促進するシグナルは、複数の神経細胞から分泌されて働いている可能性があることがわかった。(4)神経活動のイメージングによって、忘却に必要な介在ニューロンを持たない変異体では、忘却が起きないが記憶痕跡は失われていることがわかった。このことは、記憶を忘れるということが、複数の経路で制御されていることを示唆している。(5)頭部全中枢神経系を立体的に撮影できる顕微鏡システム(4Dイメージングシステム)を用いて、刺激に依存した神経活動を測定している。本年度は、記憶の差と個体差とを区別するために、刺激に依存した神経活動の変化の個体間の差に着目した研究を進めた。その結果、個体差が想定していた以上に大きいことが分かった。
2: おおむね順調に進展している
(1)線虫の忘却を促進する細胞に特異的に発現する遺伝子の中から、未知の神経ペプチドをコードする可能性がある遺伝子を多数同定することができた。(2)忘却を促進する系とは別に想起を促進する系があることを示唆する結果を得ることができた。したがって、今後忘却と想起とを区別して解析することができる可能性がある。さらに、これまで忘却と想起とを分子レベルで区別することができる計はほとんどなかったので、新たな解析系として重要な発見と考えている。(3)記憶痕跡がなくなっても(つまりみかけ上忘れていても)、記憶を覚えているということから、1つの記憶に対して、複数の記憶を維持する経路があることを示唆する結果が得られた。
(1)未知の神経ペプチドをコードする可能性がある遺伝子について、ゲノム編集を用いて変異体を作成し、その忘却に関わる表現型を解析し、それらの遺伝子が忘却を制御しているかどうかを明らかにする。このとき、忘却の促進だけでなく、忘却の抑制についても解析する。(2)想起を促す可能性があるシグナル経路が、いつ働くのかを遺伝学的な手法を用いて、解析する。また、人為的に活性化させることによって、働くタイミングを操作し、それに伴い記憶の想起がどのように変化するのかを明らかにする。(3)複数の記憶を維持する経路がある可能性が示唆されたことから、記憶痕跡が複数存在している可能性について、解析を進める。(4)全ての神経細胞を同定できるように、多色の蛍光でのほぼ同時撮影が可能なようにする。
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BMC Biol
巻: 18 ページ: 30
10.1186/s12915-020-0745-2.
http://www.biology.kyushu-u.ac.jp/~bunsiide/