研究課題
てんかんは何らかの原因で脳内に発作感受性/けいれん準備性(発作の起こしやすさ)が形成されて、発作を繰り返し起こすようになる病態である。てんかん根治のためには、発作感受性を客観的に評価し、低減・消去する手法を開発する必要がある。しかしこれまで発作感受性の実態が不明でその評価が困難であることが根治療法の研究開発を妨げてきた。そこで本研究では、まず全脳の神経活動から発作感受性を説明する脳活動パターンを情報学的手法で抽出・同定し、その程度を定量化する技術を開発する。次に同定した発作感受性脳活動パターンの解析とその定量法を用いて、発作感受性を低減・消去する手法の研究開発を目的とする。令和2年度までに発作感受性脳活動パターンの抽出・モデル化にプレリミナリに成功し、その発作感受性バイオマーカーとしての妥当性を評価した。その成果を受け、令和3年度はさらに以下の項目を達成した。1. 発作感受性脳活動パターンの解析:海馬電気キンドリングラットの多脳領域局所電場電位記録をクロススペクトル因子分析法により解析した。その結果、当該モデルにおける発作感受性は左右の海馬体間および嗅内皮質におけるガンマ帯域脳活動カップリングで説明可能と明らかになった。2. オンデマンド脳刺激によるてんかん発作の制御:経頭蓋集束電気刺激法(ISP法)を用い、発作感受性を説明する中心的な脳活動パターンに介入することで発作を制御する手法を開発した。具体的には脳活動の常時モニターによりてんかん波を実時間検出し、てんかん波をトリガーにした両側海馬の集束電気刺激で発作を直ちに終息した。3. ISP法の臨床実装:研究協力者であるベレーニ博士が中心となり、ISP法によるてんかん制御の臨床研究をブダペストで開始した。最初の患者(レノックス・ガストー症候群)において、生じた39発作のうち33発作を直ちに終息させた。
2: おおむね順調に進展している
本研究遂行に際して重要な技術的課題である「発作感受性(けいれん準備性)を説明する脳活動パターンの抽出・モデル化、定量化」を既に達成できているため。さらに、昨年度より予定していた臨床研究を開始できた。そのため「おおむね順調に進展している」と判断した。
令和3年度までに、大規模脳活動記録より発作感受性を説明する脳活動パターンを同定し、当該脳活動パターンの発作感受性バイオマーカーとしての妥当性を評価した。次年度は、非侵襲的脳刺激法および侵襲的脳刺激法で当該脳活動パターンに介入することで、一度生じた発作感受性を低減できるか検討する。1. 発作感受性スコアを低減する脳深部刺激法の開発(動物):発作感受性脳活動パターンが低い脳状態をトリガーにした報酬系脳領域刺激で低発作感受性状態を強化することで、発作感受性を低減できるか検討する。まず発作感受性を実時間検出する実験系を確立する。次に側坐核等報酬系脳領域に刺激電極を刺入し、当該検出をトリガーにした脳深部刺激実験を実施する。発作感受性の低減が示唆されている抗てんかん薬等(レベチラセタム、ブメタニド)の投与をコントロール処置とする。2. 新しい経頭蓋脳刺激法の開発(動物):経頭蓋集束超音波刺激法は経頭蓋電気刺激法に比べて空間解像度および生体透過性が高いため、より効果的に発作感受性脳活動パターンに介入できる可能性がある。まず自由行動ラットの頭蓋骨に慢性留置可能な小型超音波トランスデューサーを作製する。3. ISP法の臨床実装(臨床研究):ISP法によるてんかん制御の臨床研究を継続する。引き続き対象となる患者をリクルートする。
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件) 備考 (2件)
Clinical Neuroscience
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