研究課題
1.慢性腎臓病(CKD)での塩分感受性亢進発症メカニズムにおけるWNKキナーゼの役割マウスCKDモデルにおいて、腎臓でのWNK1蛋白の増加と下流のSPAK、NCCのリン酸化亢進がみられ、塩分感受性高血圧を呈していた。腎臓mRNA発現を検討した結果、TNFαがWNK1の蛋白量を制御していると考えられた。培養尿細管細胞にTNFαを負荷したところ、WNK1の分解酵素であるNEDD4-2が減少し、WNK1蛋白が増加した。さらに、AANモデルではTNFα阻害薬エタネルセプトが遠位尿細管においてNEDD4-2の減少を抑制し、WNKシグナルの亢進を抑制した。このことから、TNFαは腎のWNKシグナルを亢進させ、WNKキナーゼがCKDにおける塩分感受性亢進と免疫機構を繋ぐ鍵分子であることが初めて示された(後記雑誌論文No.1、学会発表No.1, 11, 13)。2.NCX1を介したNCCの脱リン酸化と尿中カリウム排泄機構先行研究で、K負荷急性期の尿中K排泄制御にはカルシニューリン(CaN)によるNa-Cl共輸送体(NCC)の脱リン酸化が重要であることを報告したが、その詳細な分子機構は未だ不明であった。NCCとCaNを強制発現させた培養細胞およびマウスを用いて、K負荷後のNCCのリン酸化、細胞内Ca濃度([Ca2+]i)、尿中K排泄の評価を行った。培養細胞において特異的阻害剤SEA0400で Na/Ca交換輸送体(NCX1)を阻害すると、高K時のNCC脱リン酸化と [Ca2+]iの上昇は抑制された。マウスでもSEA0400投与で、高KによるNCCの脱リン酸化は抑制され、尿中K排泄も抑制された。このことから、高Kによる脱分極でリバースモードとなったNCX1からCaが細胞内へ流入することが、CaNによるNCCの脱リン酸化および尿中K排泄に関わると考えられた(後記学会発表No.4)。
2: おおむね順調に進展している
先行研究においてNa-Cl共輸送体(NCC)を介して塩分出納を正に制御するWNKリン酸化シグナルを明らかにしてきたが、慢性腎臓病(CKD)の塩分感受性亢進へのWNKシグナルの関与や、慢性炎症によるWNKシグナルの制御は不明であった。当該年度においては、マウスCKDモデルを用いて、CKDにおける塩分感受性亢進のメカニズムの一端を解明、WNKキナーゼとTNFαがCKDにおける塩分感受性亢進と免疫機構を繋ぐ鍵分子であることを初めて示すことに成功した。このようにWNKシグナルの新規機能を明らかにすることができた(後記雑誌論文No.1、学会発表No.1, 11, 13)。また、WNKシグナル系の最終効果器のNCCの制御機構においても、K負荷急性期の尿中K排泄制御におけるNCCの脱リン酸化の詳細な分子機構は不明であった。当該年度においては、高Kによる脱分極でリバースモードとなったNCX1からCaが細胞内へ流入することが、CaNによるNCCの脱リン酸化および尿中K排泄に関わることを示し、NCCの新規制御機構を明らかにすることができた(後記学会発表No.4)。
WNK1 による骨格筋形成の詳細な分子メカニズム解明を目指し、サルコペニア治療の創薬ターゲットとしての現実性を高める。基礎、臨床の両面から多角的に下記の研究を行う。1. 基礎研究 (in vitro):WNK1 による atrogene の転写制御機構の解明:FOXO4 のリン酸化部位の特定、ならびに同部位のリン酸化が FOXO4 の核内外局在ならびに atrogene 転写活性に及ぼす影響を検証する。また、リン酸化プロテオミクス手法を用いて培養細胞において網羅的なリン酸化プロテオーム解析を行い、 WNK1- NKCC1 シグナル伝達系、WNK1 - FOXO4 シグナル伝達系の新規基質を同定する。2. 基礎研究 (in vivo):遺伝子改変マウスを用いた WNK1 の骨格筋形成における機能の解析:WNK1 ヘテロノックアウトマウスの骨格筋量、筋線維サイズの表現型を解析し、細胞実験で確認された WNK1 発現量低下に伴う FOXO4 の細胞核内移行、atrogene 発現増加を生体骨格筋で検証する。並行して同マウスで、骨格筋 WNK1 発現の増加刺激である長期運動トレーニングを行い、WNK1 の筋肥大効果への影響を野生型マウスと比較する。3. 臨床研究:CKD 患者のコホートを用いたサルコペニアのリスクと相関するバイオマーカーの同定:東京医科歯科大学とその関連病院に通院中の CKD 患者のコホートを立ち上げ、3 年間の研究期間で死亡、心血管病発症、末期腎不全への到達をエンドポイントとして、サルコペニアの有無、程度と予後の関係について前向きに検討する。コホートの計画、関連施設での倫理委員会への研究計画の承認を行い、患者登録を開始する。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 6件)
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