研究課題
1.NCX1を介したNCCの脱リン酸化と尿中カリウム排泄機構先行研究で、K負荷急性期の尿中K排泄制御にはカルシニューリン(CaN)によるNa-Cl共輸送体(NCC)の脱リン酸化が重要であることを報告した。NCCとCaNを強制発現させた培養細胞およびマウスを用いて、K負荷後のNCCのリン酸化、細胞内Ca濃度([Ca2+]i)、尿中K排泄の評価を行った。特異的阻害剤SEA0400で Na/Ca交換輸送体(NCX1)を阻害すると、高K時のNCC脱リン酸化と [Ca2+]iの上昇は抑制され、マウスでは尿中K排泄が抑制された。このことから、高Kによる脱分極でリバースモードとなったNCX1からCaが細胞内へ流入することが、CaNによるNCCの脱リン酸化および尿中K排泄に関わると考えられた(後記雑誌論文No.3)。2.WNK1によるマクロファージでのLPS誘導性サイトカイン産生抑制機構WNKキナーゼは生体内の塩分制御のみならず,細胞周期の制御や細胞の分化においても重要な役割を担っている。マクロファージにおいてWNK1がLPS誘導性の免疫応答をどのように修飾するかを検討した。方法として、shWNK1とWNK1ヘテロノックアウトマウスを用いて,LPS誘導性のサイトカイン産生に対するWNK1 silencingの効果を検討した。その結果、WNK1 silencingによりLPS誘導性のサイトカイン産生が増加し,炎症性マクロファージのマーカーであるNOS2の発現が増加することを発見した。さらにWNK1ヘテロノックアウトマウスにおいてはLPS腹腔内投与により誘導される血中のサイトカインが増加することを示した。このことからWNK1はマクロファージにおいてLPS誘導性サイトカイン産生を抑制することが明らかになった(後記雑誌論文No.2)。
3: やや遅れている
WNKシグナル系の最終効果器のNCCの制御機構において、K負荷急性期の尿中K排泄制御におけるNCCの脱リン酸化の詳細な分子機構は不明であった。当該年度においては、高Kによる脱分極でリバースモードとなったNCX1からCaが細胞内へ流入することが、CaNによるNCCの脱リン酸化および尿中K排泄に関わることを示し、NCCの新規制御機構を明らかにすることができた。また近年WNKキナーゼが免疫細胞の機能を調節することが明らかとされているが、マクロファージにおけるWNK1の機能は不明であった。当該年度において、WNK1がサイトカインを介してマクロファージでのLPS誘導性サイトカイン産生を抑制する機構について明らかにすることができた。このように基礎研究においてはWNKシグナル系の生体における新たな役割について知見を得ることができ、順調に成果をあげることができたが、臨床研究についてはコロナ禍のため、関連病院と連携しての立ち上げが遅れている。
WNK1 による骨格筋形成の詳細な分子メカニズム解明を目指す。基礎、臨床の両面から多角的に下記の研究を行う。1. 基礎研究 (in vitro):WNK1 による atrogene の転写制御機構の解明:FOXO4 のリン酸化部位の特定、ならびに同部位のリン酸化が FOXO4 の核内外局在ならびに atrogene 転写活性に及ぼす影響を検証する。また、リン酸化プロテオミクス手法を用いて培養細胞において網羅的なリン酸化プロテオーム解析を行い、WNK1- NKCC1 シグナル伝達系、WNK1 - FOXO4 シグナル伝達系の新規基質を同定する。2. 基礎研究 (in vivo):遺伝子改変マウスを用いた WNK1 の骨格筋形成における機能の解析:WNK1 ヘテロノックアウトマウスの骨格筋量、筋線維サイズの表現型を解析し、細胞実験で確認された WNK1 発現量低下に伴う FOXO4 の細胞核内移行、atrogene 発現増加を生体骨格筋で検証する。並行して同マウスで、骨格筋WNK1 発現の増加刺激である長期運動トレーニングを行い、WNK1 の筋肥大効果への影響を野生型マウスと比較する。3. 臨床研究:CKD 患者のコホートを用いたサルコペニアのリスクと相関するバイオマーカーの同定:東京医科歯科大学とその関連病院に通院中の CKD 患者のコホートを立ち上げ、3 年間の研究期間で死亡、心血管病発症、末期腎不全への到達をエンドポイントとして、サルコペニアの有無、程度と予後の関係について前向きに検討する。コホートの計画、関連施設での倫理委員会への研究計画の承認を行い、患者登録を開始する。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件)
Human Mutation
巻: 42 ページ: 300~309
10.1002/humu.24159
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