造血幹細胞からTリンパ球への分化には、胸腺微小環境からのNotchシグナルが必須である。胸腺移入直後の初期ProT細胞において、Notchシグナルは転写因子Tcf7やGATA3、Bcl11bの発現を誘導することで、T前駆細胞の持つB細胞や自然リンパ球やミエロイド系列への分化能を排除し、T細胞への運命を決定づける。T細胞への運命決定がなされた後期ProT細胞では、Rag1やRag2といったT細胞受容体の遺伝子再構成に関わる遺伝子群の発現がNotchシグナル依存的に誘導される。しかし、初期ProT細胞でNotch依存的にコントロールされていたTcf7やGATA3、Bcl11bはNotchシグナル非依存的に発現が維持される。そこで、本研究では、Notchシグナルがどのように発生段階特異的な機能を発揮するのか、T細胞初期分化をモデルとし、その分子メカニズムを明らかにする事を目的とする。 昨年度までに、CRISPR/Cas9システムによりステージ特異的なNotchノックアウトProT細胞のRNA-seq解析を行い、多くの発生段階特異的なNotchターゲット遺伝子を同定した。また、初期ProT細胞と後期ProT細胞を用いてNotch1-ICおよびNotch2-ICに対するChIP-seq解析を行い、Notch-IC転写因子複合体が結合するゲノム領域がProT細胞の発生段階によってダイナミックに変化する事を明らかにした。さらに、T細胞分化プログラムを発動するNotchシグナルの中でもNotch1とNotch2が機能的な差異を持つメカニズムの解析を行い、Notch1-ICおよびNotch2-ICが形成する転写因子複合体のプロテオミクス解析から機能的なNotch複合体の形成能に違いがあることを見出した。
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