研究実績の概要 |
腫瘍間質の大部分を占める線維芽細胞は癌関連線維芽細胞CAFと呼ばれ、正常部の線維芽細胞に比して活性化している。われわれは、CAFが癌細胞の悪性化・癌幹細胞様形質獲得に関与することを明らかにした。さらに近年、CAFと腫瘍免疫の関連が注目されている。今回、肺癌微小環境を構築するCAFによる免疫抑制ネットワークの制御機構を明らかにし、新たな肺癌治療の開発を提唱することを目的に本研究を計画した。 当科で切除した肺癌切除標本(106例)の腫瘍内CAFをαSMA、FAP、CD90、periostinによる免疫組織染色で解析したところ、症例ごとに各マーカーの発現状況が異なり、CAFが不均一な集団であることを見出した。CAFの分画量を客観的に解析するために、30症例分の腫瘍からαSMA、FAP、CD90、periostinを用いたフローサイトメトリーによるCAF亜集団分離パネルの確立を試みた。また、同時に腫瘍からリンパ球を単離し、CD8, CD3, ICOS, Tim3, CD4, CD25, FoxP3抗体を用いてFACSで腫瘍免疫状態を解析した。クラスター解析でHOT(CD8陽性率、CD8陽性T細胞中のICOS陽性率、CD8陽性T細胞中のTim3が高値の傾向の群)とCOLDの2群に分けた。また、分離したリンパ球の抗腫瘍効果を測定できるbispecific T cell engager(BITE)法にて細胞傷害活性を評価したところ、HOT群から採取したリンパ球の細胞傷害活性が高かった。一方で、腫瘍内αSMA陽性FAP陽性CAFの割合によってHOTとCOLDに分別でき、αSMA陽性FAP陽性CAFが多いほど腫瘍免疫が抑制されている可能性が示唆された。 以上より、CAFによって免疫抑制ネットワークの形成に適した癌周囲微小環境が形成されていると考えられる。
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