本研究では外傷性脳損傷が受傷後に増悪する機序を解明するため、1)ヒトの剖検例の後向きの解析研究を行い、頭部外傷による脳損傷の重症度と糖尿病や高血圧などの既往歴との関係を明らかにし、外傷性脳損傷の増悪化機序を明らかにする、2)外傷性脳損傷が増悪する糖尿病モデルマウスに脳損傷を作成し、コントロールの非糖尿病マウスと比較することで、脳内DNAの損傷が受傷後に持続的に生じていることを証明し、外傷による脳内DNAの持続的損傷が神経機能障害と致死の機序であることを明らかにすることを目的とした。 ヒト剖検例の解析では、頭部外傷の法医解剖例から非典型的な経過を辿った事例として頭部外傷直後に心停止を来した事例を抽出して検討したところ、重症化の機序として、飲酒酩酊に加え、頭頂部の打撲が受傷直後の心停止の要因であることが判明し、頭部打撲によって心停止を来た人にはその場に居合わせた人による心肺蘇生が重要と考えられた。頭部外傷直後に心停止を来した後に死亡した患者の法医解剖では高度な脳損傷が認められないことを死因診断で考慮すべきであり、受傷時に心停止を来す頸髄損傷と既存疾患の増悪を剖検で除外する必要があることも示した。 外傷性脳損傷のモデルマウスを用いた脳損傷の増悪機序の解析では、DNA損傷のマーカーとしてヒストンタンパク質の一種であるH2AXのリン酸化に着目し、リン酸化H2AX(γH2AX) を検出することで外傷性脳損傷の増悪を捉える研究を進め、受傷後に大脳の損傷側に免疫組織化学でH2AXのリン酸化を観察し、脳損傷の増悪機序に受傷後のDNA損傷が関係していることが示唆された。リン酸化H2AXを発現している細胞の特定、糖尿病マウスでの受傷後の脳内H2AXのリン酸化の検出、同じくDNA損傷のマーカーであるBRCA1のリン酸化の有無について解析を継続している。
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