研究課題/領域番号 |
19H04029
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
山嶋 哲盛 金沢大学, 医学系, 協力研究員 (60135077)
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研究分担者 |
及川 伸二 三重大学, 医学系研究科, 准教授 (10277006)
山下 竜也 金沢大学, 先進予防医学研究センター, 准教授 (30334783)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ヒドロキシノネナール / ニホンザル / 視床下部 / 肝臓 / 膵臓 / 細胞死 / リソソーム / Hsp70.1 |
研究実績の概要 |
リノール酸を多量に含有するサラダ油を加熱すると、ヒドロキシノネナール(HNE)という過酸化脂質が生じる。HNEは細胞膜のリン脂質やアミロイドβ、LDLなどに付着して体内に残存し、タンパク質にカルボニル化という酸化損傷を与える。HNEによってHsp70.1が酸化されると、リソソーム膜の安定性が崩れ、カテプシンが漏出し細胞死が生じる。令和2年度は、HNEが引き起こす脳組織変化と食行動の変化、消化器疾患との臓器相関を明らかにするために、実験を行なった。若年ザル6頭にHNE 5mg/週を24週間静脈内投与し、臓器を摘出した。視床下部の弓状核と肝組織および膵臓を採取し、光学顕微鏡と透過型電顕で観察し、4頭の対照群と比較した。HNEを投与したサルではASTとALTの上昇がみられ、肝臓の表面には白色調の壊死巣がみられた。トリジンブルー染色を施した組織切片で脂肪滴の沈着がみられ、HNEの免疫染色で肝細胞の細胞質にHNEの沈着がみられた。電顕で観察すると、神経細胞と肝細胞およびランゲルハンス島のβ細胞の細胞変性には共通性がみられた。すなわち、リソソームの膜が断裂し、内容物が胞体内に放出されている所見と絶対数の減少がみられた。ミトコンドリアの変性が強く、クリスタの乱れや膜の断裂がみられ、ミトコンドリアを粗面小胞体の膜が取り囲み、オートファゴソームを形成していた。粗面小胞体は一般的に著明に拡張しており、光顕的に上記の3細胞はいずれも空胞変性を呈した。 結論:HNEは視床下部のPOMCニューロンや肝細胞及びβ細胞においてリソソームの膜を損傷し、カテプシンの漏出により細胞死/変性を惹起していた。これらの細胞にはいずれもリソソーム膜の異常、ミトコンドリアの変性、オートファゴソームの形成といった共通性があった。HNEに着目して臓器連関を再考し生活習慣病を見直す必要があると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ω-6系の多価不飽和脂肪酸を加熱すると、酸化力が強い水酸基とアルデヒド基が残存する ヒドロキシノネナール(HNE)が形成されるため、タンパク質をカルボニル化する。HNEは加齢と共に血中濃度が高く なるため、各臓器で細胞変性を誘導するが、その分子機序は未解明である。申請者は、損傷 タンパクを運ぶ分子シャペロンであると同時にリソソーム膜の安定化作用も持つHsp70.1に 注目し、過剰の脂肪酸やHNEとG蛋白質共役型オーファン受容体(GPCR)が結合することで 生じるCa2+動員がカルパインを過剰に活性化させる。その結果、既にカルボニル化されたHsp70.1 が切断されるためリソソーム膜の損傷により細胞死が生じ生活習慣病を惹起し得ることを霊長類で検証し、同時にアルデヒド分解酵素(ALDH2)を用いた治療法を開発するのが本研究の目的である。令和2年度には、ヒトと同様にGPCRを高発現するサルを対象とすることで、ヒドロキシノネナール(HNE) によるHsp70.1の機能 障害がGPR40 やGPR109Aを介し脳・肝・膵の細胞死を惹起することを証明した。 これによって、ω-6系のリノール酸を主成分とするサラダ油がアルツハイマー病や2 型糖尿病、非アルコール性脂肪肝炎などの生活習慣病の原因物質である可能性について、米国栄養学会誌に(Yamashima T. et al., Intake of ω-6 polyunsaturated fatty acid-rich vegetable oils and risk of lifestyle diseases. Adv Nutr nmaa072: 1-21, 2020)研究成果を報告できたので、本研究は順調に進展していると自己評価し得た。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、脳ことに視床下部や肝臓・膵臓において、HNEが細胞死に関与する新規の分子機序を解明することができた。その結果、HNE を解毒する ALDH2といった新たな創薬目標(Yamashima, J Alz &Parkin, 10.3, 2020; Arch Neurol & Neurosci, Aug 24, 2020)がクローズアップされた。生活習慣病一般の原因である細胞死は、臓器は違っても共通性の高い分子基盤によって生じる可能性が高いので、酢酸菌が持つアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)や化学合成されたALDH2を用いて、ニホンザルにおいてHNEが脳・肝臓・膵臓において惹起する細胞死を阻害するか否かを検証するのが次の目標である。 具体的には、下記の2つの実験を行う。 1) HNEによるHsp70.1のカルボニル化とカルパインによる切断の証明: HNE投与ザルの脳・ 肝臓・膵臓よりタンパク質を抽出し、活性型μカルパインとHsp70.1 に対する抗体を用いて、 カルパインによるカルボニル化Hsp70.1切断の分子機序を解明する。 2) ALDH2によるリソソーム膜の破綻と細胞障害の阻害実験: HNEの分解が予想されるALDH2を用いて、細胞死や細胞変性の抑制効果を検証する。
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