研究実績の概要 |
食用油の多くはリノール酸を主成分とするが、揚げ物料理を作る際の加熱によって含有リノール酸が酸化されると、ヒドロキシノネナール(HNE)という一種の細胞毒を生じる。日本人の約4割はHNEを解毒するアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)の酵素活性が弱いため、加齢と共にHNEの血中濃度が増加する。 本研究においては、リソソーム膜の安定性に関わるHsp70.1に着目して細胞死の全容を解明することで、生活習慣病に共通する原因物質を究明した。ヒトの病態を忠実に再現し実用的な成果を出すために、げっ歯類に比べて臓器の類似性が高く、遺伝子・アミノ酸配列がヒトと94%もの相同性を示すニホンザルを用いた。その結果、HNEの細胞毒性に関し以下の3点を発見した。 (1)シャペロン機能とリソソーム膜の安定化作用を持つHsp70.1がHNEによってカルボニル化されると、酸化型Hsp70.1はμカルパインによって切断され易くなる。その結果、(2)リソソーム膜の安定性が崩れるためカテプシンが放出され、脳や肝臓・膵臓に細胞死が生じる。(3)この細胞死がアルツハイマー病をはじめ2型糖尿病や非アルコール性脂肪肝炎(NASH)を発症させる(Yamashima et al: Adv Nutr 11:1489, 2020, Cell Mol Gastro Hepatol, 14:2022, Front Mol Biosci 9:2023, Nutrients 15:609, 2023, Nutrients 15:1904,2023, Front Aging Neurosci 15, 2023に発表)。 以上より、食用油に由来するHNEがアルツハイマー病や2型糖尿病、NASHなどの生活習慣病の原因物質であることが示唆された。本研究は食用油に起因するリソソームの異常が細胞死の原因であると結論した世界初の報告である。
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