研究課題/領域番号 |
19H04194
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
川端 康弘 北海道大学, 文学研究院, 教授 (30260392)
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研究分担者 |
松本 久美子 地方独立行政法人北海道立総合研究機構, 森林研究本部 林産試験場, 研究主任 (10446338)
佐々木 三公子 一般財団法人日本色彩研究所, その他部局等, 研究員(移行) (70839935)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 色彩認知 / 熟達化 / 日常の経験 / 学習 |
研究実績の概要 |
従来の色覚研究は固定的で明確な構造を持つ末梢系の特性を重視するあまり、色認知の変化可能性を低く見積もってきた。他の生物よりも優れた人間の色認知システムの本質を理解するためには可塑性の高い大脳皮質における色処理過程のダイナミクスを考慮する必要がある。それが高次の中枢系を進化させてきた人間の強みと言えるからである。これまでの予備的研究から職業や趣味を通して色との関連が深い人の色認知には熟達度の違いによる個人差が見られた。これは末梢の色覚過程の堅牢で固定的な性質とは対照的な結果であり、本研究ではより大規模な実験と調査を行って、色覚のダイナミックで融通性の高い特性を多様な側面から示すことをめざす。今年度は微妙な色を日常経験中の具体的な物やイメージと結びつけることができる能力と100hueの識別力との関連性について検討した。自身が心内に持つ色表象を眼前の事物に関連させて学習することが、正確な色の認知に結びつくのかもしれない。この実験と調査は1名の被験者が1度だけ100hueテストと過去の芸術体験に関する質問紙調査を受けた。質問紙では個人の色の関わる経験値を分類するために芸術系サークルなどの経験年数を調べ、100hueテストの成績との相関を調べた。現在の93人分の集計結果では、大学生被験者の場合は主に中学、高校、大学での芸術系サークル歴を想定しているが、とくに100hueテストに時間制限を課す条件で芸術系の趣味を持つ人の成績が有意に高くなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の実験1は、大規模な調査を想定しており3年間で行う予定であったが、R1年度中に計画していた人数のおよそ5割で実験が完了したため、当初の予定通り完遂することができるであろう。また個人の色相ごとの成績についての分析も順調に進んでおり、学会発表に備えて集計作図作業を行っている段階である。また下記で詳しく述べる第2の色識別力の熟達過程の実験については、期間が長期に渡るため2年間で行う予定であったが、これも昨年末から、全体の8割強の参加者が実験を開始しており、全体の収集計画のおよそ4割が完了している。第3の高度職能者(木工職人、技術者)や芸術系学生と一般大学生の色認知特性を比較する実験については、彼らの詳細な色カテゴリ―の知識について調査する予定であり、現在比較対象となる一般大学生130名分のデータ収集が完了して、分析の段階に入っている。
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今後の研究の推進方策 |
100hueテストを用いた実験1については、今後さらに一般大学生の被験者を増やしていくが、高度職能者(木工職人、技術者)や芸術系学生にも参加いただいて、結果を比較する。実験2では、被験者はさらに色識別課題と色同定課題を数ヶ月にわたり15回以上繰り返し受け、色識別における熟達の過程を明らかにする。ここでは100hueテストの一般課題と色チップの裏面に表記された色番号当て課題を併せて行う。100hueテストは、いわば、グラデーション中の適切な順番を全体との比較で構築する作業であるが、色番号当て課題は任意の色チップの絶対値を推定するものであり、後者はかなり難しい課題である。ただ100hueテストを使ったこのような課題は、厳密な色見本を用いる仕事の職能訓練として一般的にも行われており、習熟することによってその精度は増していくと予想される。実験3については、研究分担者の松本(林産試験場)と協力しながら、木工関係の高度職能者や芸術系学生ついても色カテゴリーの知識構造について順次調査を進めていく。上記のような行動実験とともに職業や趣味を通して色との関連が深い人の色認知の特徴を検討するため眼球運動の計測と一部参加者のfMRIによる脳機能画像データの収集を行う。
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