研究課題/領域番号 |
19H04223
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
三石 大 東北大学, データ駆動科学・AI教育研究センター, 准教授 (50305306)
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研究分担者 |
大河 雄一 東北大学, 教育学研究科, 助教 (60361177)
趙 秀敏 東北大学, 高度教養教育・学生支援機構, 准教授 (60733079)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ブレンディッドラーニング / マイクロラーニング / 自己調整学習 / 探索的学習分析 / ユビキタス学習環境 / モバイル学習 / 学習体験 |
研究実績の概要 |
研究初年度である2019年度は、本研究で実現を目指す学習環境の2種類の構成要素であるマイクロラーニングによる復習用スマートフォンアプリケーションと、これによる学習履歴に基づく探索的学習分析ツールの実装に向け、当該研究グループがこれまで開発を進めてきたプロトタイプシステムを利用し、実授業を対象とした継続的な試行実験を通じてそれぞれの要求分析を行い、これに基づき、両システムの要求要件を明らかにした。 先ず、マイクロラーニングによる復習用スマートフォンアプリケーションでは、アプリケーションによる学習時に、それまでの学習状況や前回の学習項目を視覚的に提示し、次に学習すべき項目の判断と選択を容易にすることで、継続的な学習を促進できることを確認した。一方で、本研究が対象とする語学学習のようにスキルの獲得を含む学習では、すき間時間等を利用した繰り返し学習等の自己調整学習が求められるが、アプリケーション上での学習状況の提示だけでは必ずしも学習開始の動機づけにはつながらず、何らかの方法でアプリケーションの利用開始そのものを促す必要があり、そのためのユーザ体験を総合的に設計する必要があることが確認された。 また、探索的学習分析ツールの開発に向けた要求仕様の分析では、プロトタイプシステムを利用した試行実験の記録を分析から、一部の学習者については、他の学習者と大きく異なり、積極的な繰り返し学習の継続が確認された一方、多くの学習者の学習行動には同様の傾向が見られ、教員による注視が必要な学習行動の発見には、より、詳細な学習行動の分析が必要であることが確認された。また、このような学習行動の文脈を詳細に確認できるためには、学習履歴の単純な記録ではなく、個々の学習項目の滞在時間や学習項目間の遷移等を記録できる新たな記録方式が必要であることも確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
復習用スマートフォンアプリケーションの開発については、これまで開発を進めてきたプロトタイプシステムによる実証実験から、当該アプリケーションによる復習を促進できることが確認された一方、本研究が対象とする語学学習で求められる、すき間時間等を利用した繰り返し学習の促進には必ずしも十分ではないことが確認された。すなわち、これまでのARCSモデルに基づく動機づけ設計では、学習開始後の学習の促進や、学習を継続するための中長期的な動機づけには有効であるが、学習行動を開始する前に、アプリケーションを手にとり、学習の開始を促すような短期的な動機づけには不十分であることが確認できた。これに対し、このような学習行動の開始を促すためには、アプリケーションを利用していない時にも現在の学習状況を意識でき、また、必要に応じてアプリケーションの存在を気づかせ、利用を開始するような短期的な動機づけとなるユーザ体験を含めた設計が必要であり、そのために現在、ARCSモデルに基づく中長期的動機づけ設計とユーザ体験に基づく短期的動機づけ設計とを組合せた新しい動機づけ設計を提案し、プロトタイプシステムの開発を開始している。 一方、探索的学習分析ツールについては、プロトタイプシステムを利用した試行実験による学習履歴の分析結果から、一部の学習者については、他の学習者と大きく異なり、積極的な繰り返し学習の継続が確認された一方、多くの学習者の学習行動には同様の傾向が見られ、教員による注視が必要な学習行動の発見には、より、詳細な文脈を含む学習行動の分析を行える必要があることが確認された。このような文脈の分析のためには、時系列による単純な学習履歴の記録だけでなく、個々の学習項目の滞在時間や学習項目間の遷移等を含む詳細な記録を行える新たな記録方式が必要であり、これらの仕様の詳細を早急に定義する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
研究2年目以降では、初年度の研究成果に基づき、持続可能な自己調整学習のためのスマートフォンアプリケーションを実装するとともに、当該アプリケーションによる学習分析のための文脈を含む学習履歴の記録方式を検討し、探索的学習分析ツールを設計、実装する。 これまで開発を進めてきたスマートフォンアプリケーションのプロトタイプシステムを利用した試行実験の分析結果から、自己調整学習の継続のためには、教授設計理論に基づく長期的な動機づけ設計に加え、短期的な動機づけとなるアプリケーション利用時のユーザ体験が重要であること明らかになった。そこで、教授設計理論におけるARCSモデルとユーザ体験理論の双方を組み合わせることで、短期的な動機づけにより学習行動を誘発し、その後の長期的な動機づけにつながる学習体験を提供可能なユーザインタフェースを明らかにし、提案システムを設計、実装する。 また、同様に、初年度の試行実験で得られた学習履歴の分析結果から確認された詳細な学習行動の分析の必要性に対応するために、個々の学習項目の滞在時間や学習項目間の遷移等の文脈を含む新たな学習履歴の記録方式の仕様を定義するとともに、プロセスマイニングの手法を取り入れることで学習の文脈と学習効果との関係についても分析し、これらを総合的に確認可能な探索的学習分析ツールの設計とそのための学習履歴の記録形式を明らかにし、提案システムの実装を進める。
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