研究課題
(1)都市樹木の光合成・気孔応答調査:都市樹木に対する都市環境ストレスとして「大気汚染」に着目し、主要な都市樹木の樹種について2020年度は高木のイチョウ、ソメイヨシノとトウカエデを選定し、大気汚染レベルが異なる4カ所の調査地で、2020年7月~12月にかけて光合成能力および気孔応答の実地調査を行った。イチョウの光合成速度は交通量が多い調査地で低い傾向にあった。一方、ソメイヨシノについては、交通量が多い調査地ほど気孔開度が小さく、水利用効率が高い傾向にあることが明らかになった。(2)ストレス負荷実験による気孔応答調査:2019年度の実験で、塩ストレス耐性が高いことが判明したマルバシャリンバイに対象を絞り、塩ストレスが現れる塩処理濃度を明らかにすること、また光合成速度が低下するメカニズムを解明するための実験を行った。150mMの塩濃度溶液で処理したマルバシャリンバイで気孔開度の低下と光合成速度低下が同時に観察されたこと、また葉内の塩類濃度がマルバシャリンバイでは低かったことから、マルバシャリンバイには葉内への塩類蓄積を抑制する何らかのメカニズムが存在すること、また光合成速度低下には気孔開度の低下が強く関与していることが確認された。(3)気孔応答の鍵となる可能性があるアクアポリンの水透過活性:シロイヌナズナの液胞膜アクアポリンAtTIP2;2が植物細胞においても水輸送を担っていることを証明するために、tip2;2変異体の葉肉細胞プロトプラストを用いて浸透水透過係数Pfを測定した。その結果、野生型よりtip2;2変異体のPfが低い傾向が得られた。さらに抗TIP2;2抗体を用いたウエスタンブロット解析により、2週齢のシロイヌナズナ野生型では約18kDのタンパク質が検出され、tip2;2変異体では全く検出されないことを確認した。
2: おおむね順調に進展している
当初計画で2020年度に実施する予定であった次の3種の研究、(1)気孔応答データベース作成のための屋外実測、(2)ストレス負荷実験、(3)気孔応答の鍵となる可能性があるアクアポリンの水透過活性解析 のすべてについて、ほぼ計画通りに通り実施することができた。(1)の気孔応答データベース実測の研究は、2019年度からの継続である。2020年度は、樹木種を3種の高木に拡張して、交通量に起因する大気汚染に対する気孔応答を調査した。イチョウについてのみ、大気汚染による光合成速度の低下が見られた。一方、ソメイヨシノについては大気汚染による水利用効率の増加が観察され、都市域の大気汚染に対する気孔・光合成応答には大きな種間差があることが確認された。(2)の塩ストレス負荷実験においては、マルバシャリンバイの光合成機能に悪影響が現れる閾値である塩濃度を明らかにすることができた。また、塩ストレスに対する光合成応答に気孔開度が強く関与していることが確認された。(3)気孔応答の鍵となる可能性があるアクアポリンの水透過活性 については、シロイヌナズナのアクアポリンTIP2;2の細胞内局在、及び組織局在を調べるために、TIP2;2-mGFP融合遺伝子、TIP2;2promoter-GUS融合遺伝子を導入した植物の作製・選抜を行った。前者はT3世代、後者はT2世代の植物を選抜し、複数の候補系統が得られた。TIP2;2promoter-GUS系統(T2世代)を用いたGUS染色の結果、子葉や根においてTIP2;2プロモーター活性が観察された。
(1)街路樹におけるアクアポリン遺伝子の解析:街路樹の高木として最もよく用いられているイチョウを対象に、乾燥ストレスを与えたときのアクアポリン遺伝子の発現量変動をRT-PCRで解析する。(2)塩ストレスを付加したマルバシャリンバイの気孔応答・光合成応答メカニズムを解明するため、葉内におけるCO2拡散コンダクタンスの測定、および葉内におけるナトリウムイオンの局在を調べる。(3)気孔応答の鍵となる可能性があるアクアポリンの水透過活性測定とストレス応答調査:固定系統を選抜した後、Pf測定に用いたのと同じ発達段階のロゼット葉の葉肉細胞において、TIP2;2遺伝子のプロモーター活性を調べたい。同時に、抗TIP2;2抗体を用いたウエスタンブロット解析により、葉肉細胞や根におけるTIP2;2タンパク質の量も調べたい。Pf測定については、測定に用いたプロトプラスト数が少なかったため、より多くのプロトプラストのPfを測定することと、葉肉細胞以外の細胞も材料として今後も実験を行っていきたい。さらに、TIP2;2遺伝子の突然変異体を対象とし、乾燥ストレスを付加して遺伝子の発現パターン変動をRT-PCRで解析する。
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