研究課題
本研究は、世界の各核被害(カザフ・セメイ、ウクライナ・チョルノービリ、マーシャル諸島、広島・長崎の原爆被害)の実態研究及び各地域間での比較検討、さらには各被害地における被災者への補償内容について比較検討することを目的とする。しかし、当該年度は新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、海外調査が実施できなかった。そのため、これまで本研究で収集したデータの解析・考察及び遠隔で実施したセメイ医科大学での動物実験などを中心に研究を進めた。具体的には、①朝日新聞・読売新聞・被団協データを用いた原爆被爆者の思いなどに関する考察、②カザフスタンにおける旧ソ連核実験被害援護についての考察、③マーシャル及びその他の放射線被害地における援護との比較検討、④セメイ医科大での動物実験による放射線による内部被ばくに関する研究、⑤放射線ヒバクシャに高頻度に発症する骨髄異形成症候群(MDS)の発症機序の研究、⑥朝日・読売両紙の被爆者アンケート回答のデータベース構築(ファンデルドゥース担当)である。①に関しては、川野・ファンデルドゥース・和泉が米国政府に対する被爆者の思い、被爆体験継承の可能性などを考察し、紀要等にまとめた。②に関しては、平林・川野がカザフスタンの援護措置について『環境と公害』(岩波書店)にまとめるとともに、日本平和学会などで発表した。③については、竹峰を中心に、マーシャル及びその他の被害地における補償措置の比較検討を『環境と公害』で発表した。④に関しては星を中心に、⑤に関しては原田を中心に、それぞれ多くの論考を発表した。一連の研究の中で、英文に関しては、放射線及び血液学に関する著名な国際雑誌に発表した。和文については、学会誌、紀要等に発表した。コロナ禍で制約のある中、研究代表者及び分担者は本研究における役割分担を十分に果たし、本研究の深化に寄与した。研究成果については、業績欄に記載した。
2: おおむね順調に進展している
既述の通り、当初予定していた調査研究は、①セメイ地区でのアンケート調査・証言収集調査の継続、従来のアンケート結果の解析、②チョルノービリ原発事故被災者へのインタビュー調査の継続、③マーシャル諸島での聞き取り調査及び援護措置に関する研究、④朝日新聞・読売新聞実施の被爆実態アンケート調査結果を用いた被爆被害研究の4点であった。先に述べたように、コロナ禍の影響を受け、海外調査は実施できなかったが、その分、従来収集してきたデータ、あるいは遠隔で可能なセメイ医科大学での動物実験を行い、想定していた以上の研究成果を出すことができた。具体的には、朝日・読売・日本被団協のデータを用いた被爆者の意識研究、セメイにおける核実験被害者援護措置に関する考察、各核被害地の援護措置の比較検討、動物実験を用いた内部被ばくの研究、MDSの発生機序に関する研究等、それぞれ活発に研究活動を行った。2021年度より、今般のコロナ禍の影響を受けた「社会的弱者」の心的影響まで研究対象を広げることとした。試行的に当該年度は、コロナ感染症拡大と自殺との関連性、パンデミック下における財政支援の重要性の提案など意義ある研究を展開できた。それらは、業績一覧に示すように、多くの論考としてまとめた。これに関しては、想定外のものとは言え、大きな社会的意義ある研究ができたと自負するところである。海外調査が可能になれば、これまで遅れていたデータ収集を再開する予定である。データ収集という意味では、本研究は当初の予定より遅れているが、その分、従来収集のデータを用いた多くの研究成果を世に問うた。さらには、既述の通り、コロナ禍における「社会的弱者」まで研究対象のすそ野を広げ、成果を挙げた。業績に示すように、研究代表者・分担者はそれぞれの役割を十分果たしている。以上により、本研究はおおむね順調に進んでいると判断した。
本研究の当初の研究計画は、①セミパラチンスク地区でのアンケート調査・証言収集調査の継続、②チェルノブイリ原発事故被災者への聞き取り調査、③マーシャル諸島ロンゲラップ島での被災者への聞き取り調査、④朝日新聞・読売新聞実施の被爆実態アンケート調査結果を用いた原爆被爆被害の実態解明の4点であった。しかしながら、新型コロナ感染症拡大の影響を受け、予定しているカザフスタン(セメイ)での調査が実施できない可能性もある。また、ウクライナ(チョルノービリ・キーウ)での現地調査は、今般のロシアのウクライナへの軍事侵攻を受けて極めて困難な状況である。これら海外調査が不可能な場合は、従来回収してきたデータの解析・考察に時間に充てる予定である。特に、2021年度からは精神科医を新たに分担者に加えた。核被害者の心的影響についての研究を深化させる予定である。さらに、2021年度より、今般の新型コロナ感染症拡大による「社会的弱者」の心的影響まで研究対象を広げることとした。本研究代表者の専門は、原爆被ばく研究及び平和学である。「平和」とは、究極的には、「弱者」、「社会的弱者」のいない社会であるという信念のもと研究を続けてきた。ここでの「弱者」・「社会的弱者」とは、自身の専門の立場からすれば、原爆被爆者、チェルノブイリ原発事故被災者、セミパラチンスク地区住民、フクシマ住民などであった。こういった人たちに思いを馳せることができる、こういった人たちを優先的に考えられる社会が「平和」なる社会、「平和」な状況と確信している。そういった観点に立ち、今後は、今般のコロナ禍であらためて顕在化した「社会的弱者」を本研究でも対象とすることとし、精神医学を専門とする高知大学井上教授、旭川医科大学橋岡教授との共同研究を積極的に進める予定である。
すべて 2021 2020 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (24件) (うち国際共著 15件、 査読あり 22件、 オープンアクセス 19件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 3件、 招待講演 6件) 図書 (4件) 学会・シンポジウム開催 (3件)
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