研究課題/領域番号 |
19H04480
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
寺川 貴樹 東北大学, サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター, 教授 (10250854)
|
研究分担者 |
田中 香津生 東北大学, サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター, 助教 (20780860)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 粒子線治療 |
研究実績の概要 |
本研究では、抗がん剤を内包するドラックデリバリーシステム(DDS)において、粒子線照射でDDSの素材が壊変して内包薬剤を放出する、放射線感受性を持つDDSの開発を目指している。さらに、腫瘍へ線量集中が可能な陽子線治療とこのDDSを併用することで、腫瘍内のDDSから薬剤が放出され、陽子線治療の効果の増強を目指している。また、治療効果をさらに高めるため、従来の抗がん剤の構成元素を放射性元素に置き換えた放射性抗がん剤を内包したDDS開発する。その結果、 上記の3つの効果を誘発させ、陽子線をベースにして炭素線に匹敵する治療効果をもたらす治療技術の開発を目指す。 今年度は、生体に投与可能で放射性感受性を持つDDSを作成するためにDDS材料の検討および照射実験を実施した。本研究では、DDS 材質としてポリマーゲルの組成に着目した。ポリマーゲルに放射線を照射するとラジカル重合反応が起こり,凝縮などの変形により薬剤放出を誘発する。ラジカル重合反応は酸素阻害を受けるため,脱酸素剤は必要不可欠であるが一般に毒性がある.したがって、体内投与可能な脱酸素剤としてアスコルビン酸を用いたゲルを作成し、溶存酸素濃度測定とともに、放射線感受性の評価を行った。ゲル内の溶存酸素濃度はアスコルビン酸の濃度依存的に減少した。さらに、ゲルへのX線照射実験を実施し、放射線重合反応によるゲルの線量依存的な白濁が誘発され、作成したゲルの放射線感受性が確認された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アスコルビン酸(5~30mM/L)添加のゼラチン及びメタアクリル酸系ポリマーゲルを作成した。これらのゲルサンプルの溶存酸素濃度を測定した結果、アスコルビン酸濃度依存的に脱酸素効果が確認され、無添加の場合に比べ溶存酸素濃度が50%程度減少した。通常の脱酸素剤として使用されるTHPC剤の約30%減少までには現時点では及んでいないが、アスコルビン酸を脱酸素剤として使用可能と判断できた。作成したゲルサンプルを、管電圧40kV,管電流100μA のX 線管によるX線で照射し放射線重合反応を誘発させた。また、比較対照としてTHPC添加のサンプルへの照射も行った。その結果、アスコルビン酸とTHPCの両条件で、放射線重合反応によるゲルの白濁が確認された。しかしながら、THPCの場合は臨床的線量に当たる2Gy程度の線量で容易に反応が起こるが、アスコルビン酸の条件では、同程度の反応を起こすために5~10倍程度の線量が必要であった。総線量としては臨床的な線量の範囲であったが、放射線重合にともなうDDSからの効率的な薬剤放出のためには放射線感受性を高める必要があるなど、現時点で改善すべき問題は残っているが、放射性感受性DDS素材としての可能性について確認することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究方策として、DDS素材のゲルの放射線感受性を増強するためにアスコルビン酸に脱酸素効果を向上させる化合物を添加することを検討する。さらに、生体投与可能DDS材料としてのゲルの低毒性化のため、メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)等の低毒性モノマーを用いることを検討する。MPC は細胞膜を構成するリン脂質と同じ極性基を有するメタクリル酸エステルで、典型的なラジカル重合でポリマー化されるため、低毒性の放射線感受性ゲルを作製するのに最適な低毒性モノマーとして期待される。これらのゲル素材によるリポソームベースのDDSを作成する。さらに、作成したDDSサンプルに対して、X線照射とともに、拡大ブラックピークを形成する陽子線の照射実験を実施する。陽子線照射実験は東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンターの80MeV陽子線を用いて行う。付与線量および線量率条件は、臨床応用を想定して数Gyから数十Gyの範囲、および数Gy/min.に設定する。照射後のDDSサンプルに対して、放射線重合による変形、破壊の観察、内包薬剤の溶出特性について付与線量との関係を評価する。内包抗癌剤の溶出を評価するために、DDSおよびDDSを浮遊される溶液等の元素分析を行う。そのため、内包抗癌剤として容易に分析できるようにシスプラチン(白金元素を指標とする)を用いる。また、元素分析技術としてはPIXE、ICP-MSによる分析法を用いる。
|