研究課題/領域番号 |
19H05601
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
酒見 泰寛 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (90251602)
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研究分担者 |
長濱 弘季 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (00804072)
田中 香津生 東北大学, サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター, 助教 (20780860)
青木 貴稔 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (30328562)
羽場 宏光 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器科学研究センター, 室長 (60360624)
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研究期間 (年度) |
2019-06-26 – 2024-03-31
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キーワード | 基本対称性 / 電気双極子能率 / バリオン生成 / 光格子重元素干渉計 / レーザー冷却分子 |
研究実績の概要 |
理研・仁科加速器科学研究センターにおいて、電子EDMの増幅度が最大の原子・フランシウム(Fr)の生成ビームラインを開発した。ビームラインを構成する、表面電離イオン源、ビーム診断装置、高周波質量分析装置の3つの開発を進めた。特に表面電離イオン源は、AVFサイクロトロンから供給される18O6+ビームを用いた核融合反応197Au(18O,xn)215-xFrによりFrを生成するが、金標的を融点程度に加熱する必要がある。今回、標的と電気的・熱的接触を行わずに、赤外線ヒーターと一次ビームによる非接触加熱による温度制御を実現し、放電やリーク電流増加による引出し効率悪化が全くない210Frビーム(~107個/s)の長期安定供給に成功した。 Frを冷却する光源の開発を進めるとともに、光源の部屋から原子核反応でFrを生成するまでの部屋まで、光伝送用の400mの光ファイバーケーブルの設計を進め、敷設を行なっている。 さらに、クォーク色電荷EDMに感度が高い221Frのgeneratorとなるアクチニウム:225Ac(半減期~10日)の高純度高強度線源の開発を進めた。225Acは、理研のAVFサイクロトロンを用いて陽子(19 MeV)を放射性226Ra標的に照射し、226Ra(p,2n)225Ac反応によって製造する。これまで、AVFサイクロトロンの垂直照射ビームラインを整備し、226Ra標的照射装置を開発した。本装置では、高放射性の226Ra標的はタンタル製の密閉容器に格納され、ビーム照射中、循環水と循環ヘリウムによって冷却される。そこで226Raを模擬したnatBa標的を用いて、natBa(p,xn)反応でLa同位体を生成し、性能評価試験を行い、19 MeV、6 uAの陽子ビームによって安全にRI製造が行えることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で、国内で最大収量~10の7乗/秒のFr生成を達成しており、またFrのレーザー冷却・トラップに関しても、蓄積個数は~103個と限られているものの、その技術は確立した。トラップ個数の増強に対する戦略は、低速Frを用いた中性化標的表面へのFrイオン堆積による中性化効率の向上や、DLC等の新しいコーティング材料を施したキャピラリー開発によるMOT(磁気光学トラップ装置)導入効率の向上等、着実な見通しを立てている。 さらに、225Ac製造ビームラインの開発は完了しており、また、分子生成に関してはRb-Srの共存トラップ技術を確立して、大強度Fr線源の実現とともに、RbをFrに置き換えて、世界で初めての冷却RI分子の実現に向けた研究を加速する段階である。このように、EDMの各構成要素、CPを破る起源を切り分けて、抽出するための3つの量子多体系:210Fr/Fr-Sr/221Frの大強度ソースの実現に見通しをたててきた。 また、実験で観測されるFr原子のEDMは、電子EDM:deとCPを破る電子・核子(クォーク)間の相互作用:CNS-PSが主要な寄与となる。これまで相対論効果による電子EDMの原子系での増幅に関して、相対論的結合クラスター理論による精密波動関数計算の研究を進めてきた。本研究では、この考察をさらに深めて、CPを破る相互作用を含めるよう拡張し、210Fr原子EDMに寄与する電子EDMと相互作用の相関を評価し、電子EDMと相互作用の寄与を精度よく抽出する解析手法を確立した。 これらの実験、データ解析手法の両輪の進展により、予定通り、計画が推進されていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
電子EDM測定精度~10-30ecmを実現するためには、10の6乗個以上の中性Fr原子を磁気光学トラップ(MOT)中に蓄積する必要がある。すでに、これまでの研究開発で、東北大学・CYRICでの先行する研究において、Fr-MOTの技術は確立しており、本研究において、新たに開発が進められているMOT内部でのコーティング材料の研究を進め、MOT内壁に吸着しにくいコーティング(DLC)を施すことで、MOTのトラップ効率の向上を進める。国内最大のFr生成収量を安定して実現し、かつ、高精度波長計を用いた周波数安定化の開発も完了し、着実に所定のFr蓄積原子数を達成する。 さらに、MOTでトラップされたFrを、最終的にスピン歳差周期を測定するための領域に移動させ、EDMを測定するための原子干渉計を開発する。EDM測定では、EDMと電場の結合により生じる原子系のエネルギー変位を超高精度に分光するために、外部電磁場中での原子スピン歳差運動を測定するが、このとき、原子同士の衝突によるスピン減偏極を抑制し、外場との相互作用時間を長くする必要がある。そのため、レーザー光の定在波によって生じる光の波長程度の距離をもつ格子状のポテンシャル:光格子に一原子ずつトラップすることで、原子同士の衝突を減らす。特に、光格子トラップを形成する2本のレーザー光の周波数を異なる値にずらすことにより、ポテンシャルを移動させ、原子を数十 mm にわたって輸送することができる着想を得て、詳細な性能評価を確認している。移動した先に電極および磁石を設置し、さらにラムゼー分光を行うためのマイクロ波キャビティを導入することで、Fr原子を用いた原子干渉計を構築しEDM量子計測技術を確立する。得られたデータの詳細解析を行い、系統誤差の評価を進めながら、EDM長期データ収集を進めていく。
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