研究課題/領域番号 |
19H05606
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
植竹 智 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 准教授 (80514778)
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研究分担者 |
山崎 高幸 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 助教 (40632360)
下村 浩一郎 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 教授 (60242103)
吉田 光宏 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 加速器研究施設, 准教授 (60391710)
吉村 太彦 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 客員研究員 (70108447)
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研究期間 (年度) |
2019-06-26 – 2024-03-31
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キーワード | ミューオニウム / 純レプトン原子 / 精密レーザー分光 / 電弱統一理論 / 新物理探索 |
研究実績の概要 |
本研究では,最新の原子分光技術と高品質ミュー粒子生成技術,そして電弱統一理論の精密計算技術の3つを最大限に活用し,素粒子であるレプトンのみから構成される「純レプトン原子」のエネルギー準位を精密に測定する.これにより,標準理論の精密検証および電子とミュー粒子に結合する未発見の素粒子(力を媒介する粒子)探索を目指す. 令和3年度はレーザー分光のためのビームライン(S2エリア)が始動し,コミッショニングを行った.ビームラインオプティクスの最適化を進め,目標としていたミュー粒子レートである1秒あたり2×10^6個のレートを得ることに成功した.また,これまでに岡山大学やKEKつくばキャンパスで開発したレーザーシステムをJ-PARCへ移設し,再立ち上げおよび調整を行った.目標としていた出力 (2mJ@244nm) のレーザー開発が完了し,1週間に渡る連続測定も可能な長期安定度を有することも確認した.開発したレーザーシステムを用い,2022年1月よりレーザー分光実験を開始した.その結果,ラザフォードアップルトン研究所で行われた先行研究の50倍以上の信号レートで1S-2S共鳴スペクトルを得ることに成功した.ラザフォードアップルトン研究所の実験時と比べてミュー粒子ビーム強度は20倍高くなっているが,信号レートはそれを上回っており,当初の期待以上の成果が得られている. また,基底状態超微細分裂のマイクロ波分光では,新たにラビ振動分光法という分光技術を確立し,超微細分裂の遷移周波数を160×10^-9の精度で決定した.これはゼロ磁場での分光で世界最高精度であり,論文として出版済みである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
レーザー分光のためのビームライン(S2エリア)が2021年度後期から始動したことにより,11月から3月までの4ヶ月間に計30日以上のビームタイムを確保してレーザー分光実験を開始した.ビームライン準備のために2年半の時間を要したが,それを補って余りあるビームタイムが得られており,さらに今後も確保できる見込みである. J-PARCへ移設したレーザーシステムについては,最終調整により目標とする2mJ以上(244nm)の出力を得ることに成功した.さらに24時間連続運転で1週間にわたりデータを取ることが可能な長期安定度を有しており,当初の期待以上の高性能レーザーシステム開発に成功した.このレーザーシステムを用いたミューオニウムの1S-2Sレーザー分光実験では,先行研究であるラザフォードアップルトン研究所の結果を50倍以上上回る高い信号レートで分光スペクトルを得ることに成功した.先行研究のミュー粒子ビーム強度に比べて我々の実験では20倍のビーム強度が利用できているが,信号レートはビーム強度の増加をさらに上回っている.これは我々が開発したレーザーシステムの性能が高く,長時間安定した実験が可能となったことが大きい. 以上から,本研究課題は当初の計画以上に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は引き続きレーザー分光実験を遂行する.開発したレーザーシステムの改良を進めてさらなる長期安定度を得ると共に,ファイバー光コムを導入して励起レーザー周波数精度を向上させる.また,1S-2S分光実験での信号レートのさらなる増強も行い,高いSN比で統計誤差,系統誤差の少ないデータ測定を進める.
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