研究課題/領域番号 |
19H05660
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
影浦 峡 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 教授 (00211152)
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研究分担者 |
阿辺川 武 国立情報学研究所, コンテンツ科学研究系, 特任研究員 (00431776)
藤田 篤 国立研究開発法人情報通信研究機構, 先進的音声翻訳研究開発推進センター先進的翻訳技術研究室, 主任研究員 (10402801)
内山 将夫 国立研究開発法人情報通信研究機構, 先進的音声翻訳研究開発推進センター先進的翻訳技術研究室, 上席研究員 (70293496)
山田 優 関西大学, 外国語学部, 教授 (70645001)
宮田 玲 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (70804300)
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研究期間 (年度) |
2019-06-26 – 2024-03-31
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キーワード | 翻訳プロセス・モデル / 翻訳規範 / 翻訳コンピテンス / メタ言語 / 翻訳テクノロジー / 機械翻訳 / 翻訳教育 |
研究実績の概要 |
(1) 産業翻訳サービスの国際規格ISO 17100で提示されている標準産業翻訳プロセスを出発点とし、翻訳論の文献を参照しつつ、アクターとアイテムを割付け、アクターの行為とアイテムの操作を与える翻訳プロセス・モデルを完成させた。また、そのモデルに操作の規範と行為に求められるコンピテンス概念を割り付けた。中核部分のプロセスと対応するコンピテンス・規範を記述するために必要なメタ言語を構築した。プロジェクト・レベル、起点言語属性と起点言語要素、方略、イシュー、効果、主観評価表現について約600語からなるメタ言語体系を構築した。 (2) 主に起点言語要素とイシューに関するメタ言語を対象に、主に翻訳学習者の協力を得て、メタ言語と翻訳規範の有効性に関する実証実験を行い、有効性と妥当性を示した。 (3) 専門語彙多言語化手法の開発とクローリングシステムの運用、文書要素を考慮したNMTの高度化、入力に対するNMTのパフォーマンス分析等および必要なデータの構築を行った。 (4) 翻訳プロセス・モデルの基本部分を前提に、統合的翻訳環境・翻訳学習環境を提供するシステムを開発・実装し、実証実験を行った。 (5) 翻訳プロセス・モデルとメタ言語の構築、自動化対象タスクのための学習基礎データとして、ニュース記事対訳コーパス、複数翻訳コーパスを増強したことに加え、文書構造コーパスを構築した。このうち、複数翻訳コーパスはテキスト単位MTのシェアドタスク用に、国際ワークショップWATに提供している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画調書で記述した、 主に第2年度までに行うことを計画していた研究項目のうち最も大きなものは、翻訳プロセス・モデルの構築である。これは、翻訳実務プロセスの明確化、規範とコンピテンスの可操作化と翻訳プロセスへの対応付け、メタ言語の構築からなる。これについては、すべて計画通り研究を行った。調書で推定したメタ言語200-300語の倍の規模となった。実証評価についても、継続して述べで50人、150文書規模での実験検証を行った。現在、全体を一つの英語研究書にまとめ、Routledge社に提出しており、出版のための査読が進んでいる。 第二年度からの中核的課題の一つである翻訳プロセスの一部自動化についても、SD分析のための学習用コーパスの構築とパラ言語情報の整理、独立モジュールとしての用語多言語化・管理手法の開発、NMTの文書要素向け展開、NMTの自動評価へ向けた起点言語文書の性質との対応の分析を進めており、予定通りの進捗である。これらのは、主要な国際会議・論文誌で発表している。 統合的環境については、クラスルームセッションとクライアント・LSP契約セッションとを重ねた設計を確定し、基本的な動作環境をほぼ整え、システムの利用検証実験を進めている。構築したデータの一部は、一般公開したほか、シェアドタスクのために、国際ワークショップに提供した。 研究成果の、産業界・教育界への還元も進めている。複数の業界誌での研究紹介やシンポジウムでの講演・ワークショップの開催等を行い、実証実験も含め、言語サービス関連産業及び翻訳教育コースとの連携を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
基本的に、研究計画調書の枠組みに従って進める。 (1) 自動化技術の開発・実装は主に第2年度から第4年度の課題であり、(a) 起点言語属性・要素同定、(b) 目標言語への変換メカニズム、(c) NMTの自動評価についてそれぞれ開発を進め、必要なモジュールを統合的環境に組み込むとともに、(b)(c)特に(c)の評価からの起点言語の性質に対するフィードバックを考慮し、起点言語文書の属性自動評価システムとして技術統合を行う。 (2) 統合的環境の開発については、特に翻訳教育コースおよびOJTでの実証実験を、翻訳プロセスのサブモデルの試行的定義、メタ言語の部分言語の利用と接続を含めて行っていきながら、システム機能の改善を進める。 (3) 実証実験については、前半はプロセス・モデルとメタ言語の検証を、後半では特にプロダクト規範とプロセス規範の対応、その中での自動化技術の評価とメタ言語の有効性の評価を統合的に進めていく。それを通して、第2年度までに完成させた翻訳プロセス・モデル、規範とコンピテンスの対応、それを記述するメタ言語のさらなる精緻化をはかる。 (4) 社会展開として、翻訳プロセス・モデルとメタ言語、自動化モジュールを組み込んだ統合環境を、翻訳実務のOJTやプロジェクト設計、翻訳大学院での教育利用に多言語で提供する。持続的な運用基盤を整備する。 実証実験と社会展開に際しては、計画調書でのべた同時対面国際ワークショップがコロナウィルスの感染状況によっては困難であるため、統合的環境を活用し、非同期の個別国際共同実験として進めることも想定し、環境と実験設計の準備を進めている。すでに実証実験のほとんどをオンラインで進めており、知見は蓄積されている。
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