研究課題
生態系スケールでのCO2収支については,マレーシア・サラワク州のオイルパーム農園が非常に大きなCO2ソースであることを明らかにした。この原因として,森林伐採後の農園造成時に泥炭の鎮圧が不十分であったため,多くのオイルパームが倒れたことを報告した。また,インドネシア・中部カリマンタン州の撹乱の異なる熱帯泥炭林の微気象およびCO2・エネルギー収支を解析し,エネルギー収支に大きな影響を与える日射反射率(アルベド)の環境応答,火災時と火災後のCO2収支や蒸発散の挙動などを明らかにした。これらは,熱帯泥炭生態系における初めての報告である。地下水の溶存有機炭素(DOC)については,泥炭林に比べてオイルパーム農園のDOC濃度が約2倍高く,農園への転換により地下水の炭素動態が変化することを示した。泥炭試料の炭素蓄積量と蓄積年代を加速器質量装置で分析し,放射性炭素同位体比を用いて解析した結果,撹乱によって泥炭表層の炭素が失われることが明らかにした。2000,2019年の土地被覆図を作成した。ボルネオ島やスマトラ島で,この19年間に多くの森林がオイルパーム農園に変化したことが確認された。また,合成開口レーダ(PALSAR-2)による2時期の画像間の干渉解析により,泥炭地の地盤沈下量を広域で検出して泥炭分解にともなうCO2排出量を推定した。領域大気モデルを用いた数値実験を開始した。エルニーニョ年を対象に,熱帯林がボルネオ島を広く覆った現実的な対象実験と全域を裸地にした感度実験から,森林消失が雨季,乾季ともに降水量を減少させるが,減少幅は雨季初めに小さくその後増加することがわかった。この時期にマデン・ジュリアン振動(MJO)による活発な対流活動域がボルネオ島周辺に到来していたことから,森林伐採の降水量への影響はMJOの位相に依存することが示唆された。
3: やや遅れている
令和元年度に研究費の繰越を行った。これは,海外共同研究機関(マレーシア・アブラヤシ庁)の長官交代にともなって事務体制が大幅に変わり,共同研究協定提携が遅れたことによる。そのため,現地調査のスケジュールが遅延した。また,新型コロナウイルスの感染拡大にともない令和2年3月以降,研究対象地域であるマレーシアとインドネシアに渡航できず,現地調査が予定通りに進んでいない。さらに,外出制限の影響で海外共同研究機関による野外調査にも大きな支障が出ており,データの欠測などのため観測データの共有化に遅れが生じている。その結果,陸域生態系モデルのカスタマイズに利用する観測データが不足し,進捗に遅れが生じた。さらに,NASAの衛星ライダー(GEDI)のデータの一般公開が遅れたため,森林バイオマス推定の精度検証などが少し遅れている。しかし,既存のデータ解析や試料分析も進めており,一定の成果が得られている。また,オンラインを利用して海外研究協力機関のスタッフへの技術移転を進めており,来年度には問題の多くが解決するものと期待している。一方,領域気候実験はゼロからのスタートであったが,実験や評価のための広域データの取得や大規模計算用のサーバ整備を進め,通年の本格実験を実施することができた。
観測ネットワークのデータベースを立ち上げ、統合研究に着手する。現地渡航が可能ならば,オイルパーム農園を中心に泥炭(炭素や温室効果気体放出)の質や量の変化を調査する。また,異なる系統のオイルパーム苗を用いたイソプレン放出能力のスクリーニングを行う。一方,現地調査が困難な場合は,海外機関とオンライ会議を通じて綿密に連絡を取り,予定している現地調査の一部を分担してもらう計画である。森林バイオマス地図については,PALSAR-2画像とNASAの衛星ライダーデータを組み合わせることで,研究対象全域の高精度な森林バイオマス地図を作成する。土地被覆と森林バイオマスの地図情報の経年変化から,土地被覆変化にともなう炭素排出量を州レベルで算定する。また,地上観測データを活用して干渉解析による泥炭地盤沈下の広域評価の高精度化を目指す。地域気候への影響評価については,ラニーニャ年を含む複数年について領域気候実験を行う。また,より現実的な土地被覆改変シナリオについても実験を試みる。さらに,熱帯の降水変動において重要な役割を果たす積雲対流過程を精緻に表現するために,気候モデルの解像度を2~3 kmまで上げ,積雲対流を許容できる設定で地域気候の再現性を向上させる。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 10件、 招待講演 1件) 図書 (2件)
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