研究課題/領域番号 |
19H05666
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
平野 高司 北海道大学, 農学研究院, 教授 (20208838)
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研究分担者 |
谷 晃 静岡県立大学, 食品栄養科学部, 教授 (50240958)
伊藤 雅之 兵庫県立大学, 環境人間学部, 准教授 (70456820)
林 真智 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 第一宇宙技術部門, 主任研究開発員 (50776317)
平田 竜一 国立研究開発法人国立環境研究所, 地球環境研究センター, 主任研究員 (10414385)
佐藤 友徳 北海道大学, 地球環境科学研究院, 准教授 (10512270)
小嵐 淳 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 原子力基礎工学研究センター, 研究主席 (30421697)
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研究期間 (年度) |
2019-06-26 – 2024-03-31
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キーワード | 熱帯泥炭 / オイルパーム農園 / 温室効果気体 / 大気環境 |
研究実績の概要 |
熱帯泥炭林のオイルパーム農園への転換にともなうバイオマス由来の炭素排出量の定量評価を行った。また,オイルパーム農園における排水からの亜酸化窒素放出とその生成消費メカニズムについて論文発表した。さらに,撹乱程度の異なる泥炭サイトで採取された溶存有機炭素の放射性炭素(14C)年代を推定し,14C年代が未撹乱の泥炭林ではModernであったが,排水された泥炭林では730~1660年前であること,排水・火災跡の泥炭林では約4000年前の炭素が溶存有機炭素として排出されていることを明らかにした。また,泥炭林から農園に転換後26年間で,1500年間にわたり蓄積されてきた泥炭が約40 kg C m-2消失した可能性が示唆された。 ヤシ類のイソプレン放出能を評価するために開発した簡易測定法を用いて,マレーシア・パーム油庁の苗畑で,オイルパーム苗から放出されるイソプレン放出速度を測定し,放出速度に5倍程度の個体間差があることを明らかにした。 昨年度に衛星データから作成した土地被覆図の精度向上を進めた。また,森林バイオマス地図作成のため,衛星ライダーや衛星画像の解析を行うとともに,泥炭林をアブラヤシ農園に転換したエリアの沈降量を評価するため,新たにSBAS法という時系列干渉SAR処理を実施した。 モデルシミュレーションにより,泥炭林のオイルパーム農園への転換により,大量のGHGが放出されることを示した。また,各種泥炭林に対応した呼吸量のモデル化を行い,推定精度の高度化を図った。 ボルネオ島の植生を改変した3km解像度の気象モデル実験によって,熱帯雨林の降水増幅効果が定量的に示された。本研究で初めて通年の実験が行われたことにより,雨季で約70%,乾季で約20%の降水増幅効果があることが分かった。さらに,ラニーニャ年には1年を通じてエルニーニョ年の雨季と同様の増幅効果があることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
熱帯泥炭の炭素循環とオイルパーム農園化にともなうGHG放出の変化について,現地への観測機器の搬入を含めて順調に進んでいる。マレーシアの農園において観測を開始するとともに,泥炭炭素の年代測定や,水路などを通じての溶存態有機炭素動態について,森林と農園の観測による比較準備を整えている。また,インドネシアの撹乱程度の異なる泥炭サイトにおける14C分析調査を通して,泥炭林の排水・火災が土壌炭素貯留に及ぼす影響とそのプロセスを把握することができた。さらに,マレーシアにおいて,泥炭林から農園への転換の土壌炭素貯留に及ぼす影響をより詳細に解明するために,農園に隣接する未撹乱の泥炭林サイトで土壌調査等を開始した。有機物の分解によって大気中に放出されるCO2の起源を推定するための調査も開始した。 現地にてイソプレン放出量が少ない系統を数個体選別できた。順調に進んだが,MPOB側の苗管理体制に問題がみつかったため,現地との連絡をより密にとって観測を進める予定である。 土地被覆図の精度向上のため,昨年度改良した教師データを用いて再分類し,再解析を実施中である。森林バイオマス地図作成の入力データとなる,衛星ライダーGEDIや衛星画像(PALSAR-2,Sentinel-2)の収集と解析を行うとともに,泥炭地の沈降量をSBAS法で面的に把握して現地データと比較した。また,広域炭素収支推定ため,ERAの気象データの整備と土地被覆データの作成を行い,様々な泥炭林に対応した呼吸量のモデル式の作成を行った。 陸面アルベドの季節変化や土地利用分類の適正化を施したことで,数値実験の再現性が改善した。その結果,衛星観測とよく一致する降水量の季節変動特性が再現された。この設定で植生改変実験やラニーニャ年の実験等を実施し,熱帯雨林と地域気候の関係が季節や年によって変化することが明らかになりつつある。
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今後の研究の推進方策 |
現地観測ネットワークを活用した統合解析を進め,論文として発表する。また,泥炭土壌のpHを変化させた培養実験におけるメタン生成能と微生物群集の変化の結果をまとめた論文発表を行うとともに,アジア域の熱帯泥炭地における泥炭分解やメタン放出に関するレビュー論文を完成させる。さらに,新型コロナウイルス感染症の感染拡大にともなう渡航制限等が緩和したため,現地調査を強化して研究の進展を加速させる。 同一個体の葉位によるイソプレン放出速度の違いの変動幅を明らかにするなど,より詳細な実験を実施するため,MPOBだけでなく,アブラヤシの苗を生産する企業とも共同研究が可能か検討を進め,カウンターパートと連絡を密にとり研究を推進していく。 衛星画像(MODIS)から2000~2019年の各年のマレーシア・インドネシアの土地被覆図を作成するとともに,衛星ライダーと衛星画像を併用して2020年時点の森林バイオマス地図を作成する。これらを組み合わせ,アブラヤシ農園への転換を含む土地被覆変化にともなう年々の炭素排出量を算定する。 フラックスデータから作成した熱帯泥炭林の呼吸量の式を反映したモデルを用いて,2000~2022年まで8 kmの空間解像度で東南アジアの炭素フラックスの推定を行い,土地被覆変化にともなう炭素フラックスの時空間変動の評価を行う。また,リモートセンシングによる結果と比較し,改良等を行う。 これまで実施した数値実験データを解析し,様々な時間スケールについて水循環と土地利用変化の関係の理解を深める。ラニーニャ年はエルニーニョ年の雨季と類似した特徴を示すことをふまえて,特にエルニーニョ年の雨季やそのオンセットに寄与する季節内振動の時間スケールでの大気陸面相互作用を追加解析し全体の成果をとりまとめる。
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