研究課題/領域番号 |
19H05669
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
竹村 俊彦 九州大学, 応用力学研究所, 教授 (90343326)
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研究分担者 |
須藤 健悟 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (40371744)
鈴木 健太郎 東京大学, 大気海洋研究所, 教授 (00396946)
五藤 大輔 国立研究開発法人国立環境研究所, 地域環境保全領域, 主任研究員 (80585068)
道端 拓朗 岡山大学, 自然科学学域, 准教授 (30834395)
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研究期間 (年度) |
2019-06-26 – 2024-03-31
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キーワード | 短寿命気候強制因子 / 気候モデル / 気候変動 / 大気汚染 / エアロゾル / 雲 / 降水 / 微量気体 |
研究実績の概要 |
水平解像度1kmスケールでシミュレートすることを可能とする気象シミュレーション基盤ライブラリSCALEに、本研究グループにて開発してきたエアロゾルモジュールSPRINTARSと大気化学モジュールCHASERを組み込むモデルの開発を進めている。今年度は、エアロゾル放射相互作用とエアロゾル雲相互作用をオンライン計算できるように開発を進めたほか、SCALEへCHASERを組み込む開発を実施した。 NICAM-Chemでは、エアロゾル湿性沈着に関与する定式・物理量等を変更したシミュレーションを水平解像度3kmで実施した。雲内洗浄スキームの差異の影響が最も大きく、雲内洗浄のパラメータや雲微物理モジュールの違いによる影響は比較的小さいことを示した。 MIROC-CHASERには、不均一反応やHONOに関する化学反応および雷NOxの改良型スキームが新たに導入され、最新の観測データを用いた詳細な検証・調整を行うとともに、全球化学場に与える影響を解析した。また、SLCFsとして重要なメタンについて、近年の変動要因を解明する実験を実施し、各種排出量変動および大気酸化能(OH濃度)変動による影響を定量化した。 MIROC-SPRINTARSの結果を用いて、南北半球間でのエネルギー収支変化の非対称性に着目した解析を行った。黒色炭素と二酸化硫黄の排出量変化によって、大気と海洋の南北熱輸送が変化して熱帯降水帯が南北に移動すること、その度合いを決めている大気・海洋熱輸送の内訳が雲・降水のパラメータ化に顕著に依存することを見出した。また、衛星シミュレータを用いて、降水頻度・強度に加え、降水タイプの診断も実施できるよう機能を拡張した。その結果から、降雨・降雪の相分割の不確実性が気候感度の不確実性と繋がっている可能性が示唆された。 研究代表者の竹村は、科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)を受賞した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
超高分解能で短寿命気候強制因子(SLCFs)の動態を計算することを可能とするSCALE-SPRINTARS/CHASERの開発は、当初研究計画を遙かに超えるものである。当初は、SCALEによるLES実験から得られる雲・降水過程に関する知見を活用するのみの計画であったが、優秀な博士研究員を採用することができたため、雲の力学・物理過程を直接的に詳細に扱うことが可能なモデルにエアロゾル関連過程を組み込み、雲・エアロゾル相互作用を一層本質的に表現できる数値モデル開発に取り組むこととした。開発の進捗も想定以上に速く、今年度でSPRINTARSおよびCHASERの組み込みは基本的に終了した。すでに本研究課題以外での活用も計画されており、波及効果も拡大していくことが見込まれる。 NICAM-Chemにおいては、エアロゾル湿性沈着過程に関する感度を調査して精度向上に向けた知見を得ることができた。また、NICAMのバージョンを更新し、より精緻化されたモデルを用いて、地域別にSLCFs排出量を変化させた感度実験にも着手した。 MIROC-CHASERにおいて新規導入および改良されたプロセスにより、各種観測データを用いた詳細な検証・調整を通して、化学気候モデルとしての精度の大幅な向上が実現された。また、国際的な気候変動対策において特に注目されているメタンに関する実験・解析を実施し、削減策の検討に対して重要な科学的知見を得ることができた。 MIROCにおいては、雹・あられを陽に予報する新しいパラメタリゼーションの構築に着手し、次年度以降も開発に取り組む。温暖化時に降雹頻度が極域で大幅に増加するなど、これまでの気候モデルでは評価ができなかった新しい知見が得られた。また、気候モデルにおけるエアロゾル・雲・降水の微物理過程について、衛星観測情報を併用して評価・高度化する手法を導入できた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の最終目的であるSLCFsの気候影響の定量化のために、エアロゾル気候モデルMIROC-SPRINTARS、化学気候モデルMIROC-CHASER、SLCFs結合雲解像モデルNICAM-Chem、超高分解能モデルSCALE-SPRINTARS/CHASERを用いて、各モデルによるシミュレーション結果を階層的に比較・検証する。組成別・地域別・燃料起源や森林火災起源などの起源別に、それぞれ現実的な範囲内で関連排出量を変動させる感度実験を実施する。 また、降雨・降雪・降雹をシームレスに予報するスキームの開発により、既存の気候モデルに見られた系統的なバイアスを効果的に改善することが可能になったが、サブグリッドスケールの雲・降水の取り扱いは未だに簡素に取り扱っている。衛星観測から得られる知見をベースとして、雲から部分的に降水が生じるより現実的なスキームを開発する予定である。 本研究課題の成果は、気候変動緩和へ向けた国際的な潮流が加速しつつある中で、政策や一般社会活動に資する科学的知見を提供するという観点でも活用していく。例えば、研究代表者の竹村は、Asia Pacific Clean Air Partnership (APCAP)のScience Panel Memberを務めており、アジア・太平洋各国の環境政策決定者と直接的な接点があるため、本研究課題の成果を積極的に提供していく予定である。また、SLCFsに関わる気候モデル相互比較プロジェクトと連携して、気候変動政策に関わる科学的知見の提供に寄与する。
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