研究課題/領域番号 |
19J00197
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
麦山 亮太 一橋大学, 経済研究所, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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キーワード | 社会階層 / 労働市場 / 職業経歴 |
研究実績の概要 |
本研究では第1に、産業構造の転換・労働市場の変化を背景として、階層構造がいかに変化しているのかを労働者の移動の観点から検証するという問いを立てた。これに関連して高度成長期から近年に至るまでのマクロな社会経済的変化のなかで出産・育児期における女性の就業経歴がいかに変化したのか、労働市場の変化がそれにいかなるインパクトを与えたのかについて検討した。分析の結果、雇用労働市場において継続的に就業し続ける女性は増え続けているものの、継続的に就業する女性の多い自営業・家族従業セクターの縮小がその増加を相殺し、全体としては出産・育児期に継続的に就業する女性の割合は横ばいに推移したことを示した。 第2に、現代日本に焦点を当てた階層移動のメカニズムを明らかにするという問いを立てた。これに関連して、とくに若年層における非正規雇用者の増加という現代的な問題関心のもとで、転職に際して雇用形態を変えることがその後の賃金上昇に対していかなる帰結を生むのかを検討し、論文として投稿し(現在査読中)。分析の結果、転職(企業を変える)以前に非正規雇用だった者は、正規雇用だった者と比べて転職後に大きな賃金の下落を経験し、その下落はとくに非正規雇用から正規雇用へと移動した場合に顕著であることを示した。これは非正規雇用から正規雇用へと移動することが「成功」であるとする従来の見方に対して疑問を投げかけると同時に、客観的な地位が上昇していることはミクロにみれば必ずしも報酬でみた場合の上昇移動を意味しないという含意を有し、地位の上昇をリニアに階層上昇とみなす見方にも修正を要求することが示された。 さらに、職業の変化が賃金の変化といかに関連しているかについても検討した。暫定的な結果として、職業の変化が賃金に与える影響は、当該の職業変化が企業「内」で起こるか、企業「間」で起こるかによって大きく異なることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は日本の社会学において代表的な学会である日本社会学会・数理社会学会・家族社会学会において、また米国で開催された国際学会International Sociological Association RC28 (Social Stratification and Mobility)でも研究成果の報告を行うことができた。さらにこれまで実施してきた転職による雇用形態の変化と賃金変化に関する論文を投稿(現在査読中)へとつなげることができた。さらに、当初の研究予定に加えて、職業的地位達成の学歴差の時代的な変化についても検討した論文も投稿につなげることができ、長期的な社会変動と階層構造の変化の関係についての理解を深めることができた。 ただし一方で、統計法第33条にもとづき「労働力調査」の使用を申請し分析を進めることを予定していたが、申請に時間がかかり、分析には着手できていない。この点に関しては、2020年度より分析に着手する予定である。以上、当初の計画以上に進展した部分と、当初の計画より若干遅れている部分が両方あるという点を鑑みて、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度の研究を通して、現代日本における階層構造の生成過程、および長期的にみた階層構造の変容・維持過程の一端を明らかにした。今後取り組むべき課題は以下の2点である。(1)労働力調査の分析を進めることによって、職業移動がどの程度起こっているのか、またその職業移動がいかなる階層的な意味を有しているのかを明らかにする。(2)現在着手中である出産・育児期女性の職業経歴、およびその変化のもつ階層的な意味について論文を執筆し、投稿へとつなげる。以上2点について今後より積極的に進めていく予定である。分析途上の成果については国内・国外の学会にてその成果を随時報告していく。
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