今年度においては昨年度の成果を,増殖競争に着想を得た情報学のアルゴリズムに応用することを検討した.前年度においては一旦広い視点から増殖競争によりコンパクト表現の獲得される過程を取り扱おうと試み,とくに変動環境下でのコンパクト表現を活用した生物集団の生残戦略を考察するためFisherの基本定理を拡張していた.この拡張されたFisherの基本定理を,増殖競争を最適化に応用した進化計算の解析に応用し,進化計算の性能を理論的に解析しようと試みた. その結果として次のような成果を得た.まずは目的関数がランダムではない場合に関して,増殖せず突然変異のみで解が変化する場合と比べて,増殖がある場合の方が早く目的関数が小さくなることを示した.この差分は前年度の結果と同様に,解の目的関数値の集団の対数分散で特徴づけられる.これにより増殖競争は最適化に役に立つものだと明らかになった.加えてこの対数分散の値は解の集団の多様性が低い(コンパクトになっている)と小さい値をとるため,コンパクト表現の獲得と最適化の速度のトレードオフも明らかにしている.その後Fisherの基本定理を目的関数がランダムな状況にも拡張した.この状況は昨年度の環境が変動する場合に対応する.この場合についても各環境での対数分散を平均した値で増殖による最適化効果が特徴づけられると示している.この結果はそれぞれの環境(目的関数の実現値)での増殖の効果が足しあわされることで,全体としても最適化が進行し平均的に性能がよいコンパクト表現が集団として獲得できると解釈できる.
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