今年度は、研究目的の2点目、企業組織の要因が就職機会の不平等を生み出すメカニズムの検討を進めた。具体的には、2つの実証研究を遂行しながら、博士論文の執筆に取り組んだ。 まず、前年度から引き続き、企業の女性管理職比率が、新卒女性の採用・定着に与える影響を検討した。分析には企業行動を長期間観察したパネルデータを利用し、効果の厳密な検証を試みた。分析から、女性管理職の多さは、女性採用・定着の促進につながっていないことが示された。これは、日本企業で雇用のジェンダー平等化が進まない一因を説明する点で、重要な知見である。一方で、部長以上の管理職に限定すると、女性比率の高さが女性従業員の定着を促していた。これは、より権限の大きい上位管理職が、ジェンダー平等化に重要であることを示唆する。以上の成果をまとめた研究論文は、関連学会誌に掲載予定である。 さらに、企業によるダイバーシティ担当部署の設置が、雇用の多様性に与える影響を定量的に検討した。女性管理職比率・女性採用比率・障害者雇用率への効果を総合的に検討した結果、時代効果を考慮すると、部署の設置が雇用の多様性を高めているとはいえないことが示された。一方で、女性役員比率が一定水準を超える企業では、部署設置が女性管理職比率を有意に高めていた。単に専任部署を設置するだけでなく、それを支える役員層の存在があってはじめて雇用の平等化が達成されることを示した点に、この分析の学術的・社会的意義がある。この成果は関連学会で報告している。 以上の分析、および前年度までの成果を踏まえて、博士論文の執筆作業を進めた。本研究課題の目的に沿って、まず就職機会の不平等に影響する諸要因とその効果を整理した。さらに、分析結果を総合して浮かび上がる、就職機会の不平等を規定する企業組織のメカニズムを、より一般的な形で描き出した。
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