研究課題/領域番号 |
19K00006
|
研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
鈴木 晴香 (日笠晴香) 岡山大学, ヘルスシステム統合科学研究科, 講師 (50724449)
|
研究分担者 |
工藤 洋子 東北福祉大学, 健康科学部, 講師 (70438547)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 意思決定 / 最善の利益 / 代理決定基準 / 自律 / 選好 / 認知症 / 遷延性意識障害 |
研究実績の概要 |
本年度は、前年度の研究をふまえて、対応能力を欠くと判断される人が保持する諸能力や意識の有無などに応じて、本人にとっての「最善の利益」の構成要素がどう捉えられるかの検討を更に進めた。特に、1.対応能力を欠く人の「最善の利益」概念の考察、2.専門職者や家族への聞き取り調査という2つの側面から研究を遂行した。 具体的には、1に関しては、従来の代理決定基準に関連する文献を中心に、先行研究の議論を検討した。これにより、「最善の利益」の構成要素を捉えるふたつの文脈が把握された。第一に、対応能力を欠く以前の本人の意思決定や価値に関する情報が利用できない場合に適用される「最善の利益」基準の文脈である。第二に、対応能力を欠く以前の本人の意思決定や価値に関する情報が利用できる場合であっても、それに従った選択によって侵害され得るような、本人の「最善の利益」を捉える文脈である。とりわけ後者では、生命の維持や苦痛にまさる喜びに加え、現在の選好、関係性の中で捉えられるウェルビーイング、個人の生活様式をふまえた客観的・医学的最善など、様々な要素が議論されており、また、それらが従来の代理決定基準においてどのような優先性を有するかに関しても多様な議論があることがより明確にされた。この研究成果は学術研究会において口頭発表した。 2に関しては、認知症の人のケアに携わる専門職者および家族への聞き取り調査を通して、対応能力を欠く人の意思決定の現実の課題を把握した。また、対応能力を欠く以前に本人が表明した価値や考え方を尊重すること、本人の現在の主体性を尊重すること、関係者が判断する本人の経験的な利益を保護することの相互の関係性や優先性に関して、関係者それぞれの捉え方を理解することができた。今後は、この聞き取り調査の内容分析を進める予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
意思決定プロセスにおける自律尊重の意味内容と、対応能力を欠く人の意思決定における「最善の利益」概念に関する検討は、ほぼ当初の予定通りに進展した。また、認知症の人のケアに携わる専門職者などへの聞き取り調査も実施できた。しかし、COVID-19の影響により、本年度に発表予定であった国際会議の開催が2022年度に延期となったことや、遷延性意識障害の人のケアに携わる家族への予定していた聞き取り調査が実施できなかったことなどから、当初計画していた論文への取り纏めが予定よりも遅れている。
|
今後の研究の推進方策 |
対応能力を欠く人の「最善の利益」の構成要素に関して、先行研究の議論において強調される要素とその文脈や前提をより網羅的に検討する。具体的には、認知症の場合と遷延性意識障害の場合との相違や、それぞれの状態レベルの相違によって、本人にとっての利益と見なされる要素がどのように変化するか、その根拠は何かに関して、先行研究の議論を詳細に考察する。さらに、そのような理論的考察と並行して、これまでに実施した聞き取り調査の内容分析を進める。これにより、認知症の人の主体性の尊重を中核とするケアにおいて、認知症の人にとっての最善の利益がどう捉えられているか、その構成要素とその中で優先されるものを明らかにすることを目指す。これらをふまえて、臨床での妥当性を持ち得る理論を検討し、これらの成果を論文に取り纏めて公刊するとともに、報告書を作成する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
認知症の人のケアに携わる専門職者や家族への聞き取り調査は実施できたものの、COVID-19の影響により、遷延性意識障害の人のケアに携わる家族への聞き取り調査は実施できなかった。そのため、遷延性意識障害の人のケアに携わる家族への聞き取り調査に関連する経費で未使用額が生じた。未使用額は、今後の社会状況をふまえつつ本研究目的を遂行するために、次年度に調査結果の分析や、分析に関連する文献の購入等に再配置して使用する予定である。
|